秘めたる思い

薄桃色の花びらが舞う。触れると消えてしまいそうなぐらい淡いそれは、儚くも美しい。
また、命が芽吹く季節が巡ってきた。研ぎ澄まされた氷のような空気も溶け出し、柔らかみを帯びる。
希望に満ちてゆく。けれどこの花びらのように。ふわりと浮かび、どこか愁いを含んでいる綿雲のように。
優しさの反面、寂しさのような切なさをどの季節よりも愛していた。

「立派な木だ」

彼はそっと触れ見上げる。

「でもまだ若いから、もっと大きくなるだろうな」

弾んでいる声は、成長を心待ちにしているのをありありと表れている。
彼が嬉しそうだと私まで嬉しくなる。そう思えるのは後にも先にもきっと彼だけ。
そしてこの事がどれほど幸せな事か。全てが満ちていくような想いを私は一生、忘れはしまい。
誘われるまま横に並ぶと自然に手を繋がれて、思わず手を引きそうになった。
神経が一点に集中する。胸の中で鼓動が早鐘のように打ち暴れる。熱に、倒れてしまいそうだ。
恥ずかしさに声が出そうで出ないのを知ってか知らずか、彼はじっと花を見つめている。
このまま気がつかないで。こんな事で生娘のようにあたふたしているなんて知られたくない。
でも、この手の熱から伝わって欲しいと願っている。

「こんなに立派なのに一本だけだと寂しく思うね」

こんな広くて見晴らしがいいところに一本だけとは贅沢な子だ。
けれどたった一本だけだからこんなにも圧倒的な存在感があるのだと。そう思う。
思うだけで、やはり言葉にはならないけれど。

「うん。決めた」

頷いた彼はひどく満足げだ。

「毎年、見にこよう。もうコイツに独り占めはさせないぞ」

頬を綻ばす彼は幼い子供のように無邪気で、それだけでそこに光が差し込んだよう。
こうやって感情を隠すことなく全面に出せること。私には到底出来ない。
羨ましい。
でも妬めない。
彼の人徳が成せる技なのだろうか。
私は一つ、頷く。
声に出すと裏返ってしまいそうだから。
だから、願う。
言葉にできない分。この繋いだ手から溢れんばかりのこの想いが伝わることを。

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