マルコside小説
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#41 私のおねだり
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やっと体育祭も終わり、体操着の出番も少なくって憂鬱な溜息も随分と出番がなくなった。
一人だけジャージを着ていると言う恥ずかしさを、彼にも分かってもらいものだ。
私はけして、目立ちがり屋さんではない。
何か、私ばかり掟があるようで、納得がいかない気がしてならない。
しかしこれと言って、マルコ先輩に掟を作る様な事が思い浮かばない。
何かないものかと、腹の底にじわじわと蓄積されていく不満に唸りをあげていると、なんとも陽気な声色が頭上から降ってきた。
「どうしたの?眉間に皺!」
「あー…うん…」
そんな心のもやもやを、もごもごとあまり纏まりのない言葉で伝えれば、思い浮かばないのなら無いんじゃない?と、さらりと告げられそれもそうだとあっさり納得してしまった。
浮かばないものはどうあがいても仕方がない。確かにそうだ。
そうしてふと、向けた目線の先に思わず甲高い声を上げてしまう。
「可愛い!それ…サッチ先輩から?」
「え?あぁ、そうよ」
可愛いでしょーと言う彼女の薬指には、ハート型にあしらわれたダイヤの指輪が光っていた。
「うん、凄く可愛い!!」
余程、羨ましそうにしていたのか、
「そんな、涎垂れそうな顔しないの!」
指輪、貰った事ないの?と聞く彼女に、即答でないと答え、私は未だに指輪に釘付けになっている。
「じゃ、おねだりしたら?」
すぐ買ってくれるわよと簡単に言うが…
たしかに、言えば買ってくれるだろう。でも…
自分から物をおねだりした事なんてない私には、かなりの難題な事だ。
そして、お昼休み。
指輪が頭を離れない私は、頭を抱えていた。
そんなに欲しいのならば、自分で買えばイイじゃないかと思うだろうが、
彼からもらう事に意味がある。そして、それを彼の手から嵌められたい。
しかし…誕生日でもないのに、物の催促なんて…
「できないょ…はぁ」
思わず口に出てしまった言葉と溜め息。
そんな私の溜め息に、敏感に反応する隣の人物。
「どうした?」
溜め息なんか付いてと、心配してくれるのは有難いが、ローに相談なんて出来る筈がない。
「ううん。気にしないで」
微笑みとともに、大丈夫だと彼に告げるが、
「どうせ、あいつ絡みだろ」
いいから言えと、今日は(も)やけに食い付く彼。
「いいの、ほんとにいいの」
このまま隣に居たら、言うまで聞かれそうだと、席を立つ。
「逃げんな。バカ」
そんな彼の言葉に笑顔で返し、教室を出た。
あの日以来、決めたのだ。ローに甘えないって。
そんな私が、彼に相談なんて出来る筈がない。
意味もなく廊下を歩いていると、偶然、マルコ先輩達に遭遇してしまった。
「#name#。飯はもう食ったかい?」
食べましたと返事をし、一緒に居たビスタさんとイゾウさんに挨拶をする。
それから二人は、"またな"と声を掛けて行ってしまい、マルコ先輩と二人きりになった。
「ん?何かあったのかい?」
様子が変だねいと、彼の洞察力には驚きだ。
「な、何もないですよ」
「ククッ。そうかい」
別に落ち込むような悩みでもないので、上手く隠せていたのだろう。
それ以上詮索されない事に安堵する。
「今日…買い物でも連れてってやろうかい?」
「えっ!?買い物に?」
「お、おう」
どうした?珍しく食い付くなと、この前、新しいバスグッズが欲しいって言っていただろうと、不思議顔を向けられる。
「い、いえ。はい。行きましょう」
私とした事が、彼が指輪の事を知っている筈がないじゃないか。
「ん、じゃ後でな」
「はい!では、後で」
いいや。指輪の事はひとまず忘れよう。
私には出来ない。
お、おねだりなんて…
放課後になり、彼と街へと足を向ける。
私が欲しいと言うバスグッズ。
それは、少し洗い辛くなったスポンジや、バスマットなどだ。
ボソリと呟いたにも関わらず、しっかり拾っていた彼は、本当にぬかりなく感心してしまう。
あ!!この作戦で、ボソリと指輪が欲しいと…
ダメだ。意識してしまってきっと不自然になるに違いない
買い物も終え、お茶でもしようと歩いていると、無意識に、展示してあった指輪に目がいってしまった。
時間にして三秒くらい。
その指輪を見詰めていたと思う。
それからお茶をして、一緒に帰り、新しく買ったバスマットをセッティングしていると、
「#name#。こっち来いよい」
「はい。何ですか?」
彼はよく私を呼びつける。
別に嫌ではない。どちらかと言うと、私は亭主関白気味な人が好きだ。
「左手。出してみろい」
「左手?はい」
言われるままに出した私の左薬指に、冷たい感触がした。
「ぇ……何で…」
「ククッ。要らなかったかい?」
「要ります!要りますよ!凄く嬉しいです」
「ん。よく似合うよい」
「有難うございます!!で、でも…いつの間に」
「トイレに行く振りしてよい」
見てただろ。ショーウィンドウの指輪。
「マルコ先輩っ!」
確かに、長いトイレだと思った。
まさか指輪を買いに行っていたとは…
あんな、一瞬の部類に入る私の仕草を、見逃す事なく見ていてくれる彼。
少し涙腺の緩んだ私に、
「はっ、感動しすぎだろい」
当たり前じゃないか。嬉し泣きなんて、私にさせるのは、マルコ先輩しかいないんじゃないかと思う。
「だって…グス…嬉し過ぎて」
「わかったから…泣くなよい」
それから苦笑いの彼に、頭を撫でられながら、この幸せな気持ちを噛み締めたのだった。
「その内よい、一生外せない指輪、嵌めてやるよい」
「………ぅ、はい」
「あ?嫌そうだねい」
「えっ!?どの辺見て嫌そうなんて思ったんですか?」
「嘘だよい。#name#…」
「マルコ先輩っあっ、……今日は…ダメですよ」
「なっ!?」
「あれで、アレなので…」
「ぅっ…残念だよい…」