マルコside小説 <img src="//img.mobilerz.net/img/i/63880.gif" border=0 align=absmiddle /> | ナノ

#50 危険なフライトvol




そうこうしている内にあっという間に週末を迎え、いつの間に連絡をとったのか、彼は私の両親とアポイントまでとっていた。

なまじ本気にしていなかった私は、彼の行動力と、その熱意に、ただただ唖然とするばかりだ。

勿論彼の事は大好きだし、"いずれ”結婚出来ればいいなと思っているのは確かだが、まだ早過ぎだと正直思う。
結婚なんてまだ考えた事もなかったし、婚約なんてものもする意味が…よく分からない。

今のままでは一体何が不満なのか、誰か彼の心中を是非とも教えて欲しい。

だって紙切れ一枚にサインをしたからといって、永遠の愛なんて保証されはしないのだから。

それに、あの時は本当にお腹が減っていて、話を早く終わらせたいが為に今回の婚約に承諾しただなんて…今更言えない。うん。絶対言えない。


そんな心に爆弾を抱えている私は今、引き摺られる様にして乗せられた飛行機の中だったりする。

「マルコ先輩本気で行くんですか?それに…いつの間に連絡を?」

「あぁ、行くに決まってるだろい。連絡はあの次の日にねい。わざわざ来なくても、"喜んでどうぞ"って言ってたよい」

「なっ! よろこ…」

「だがそう言う訳にもいかないだろい。オレの親にもなる人達だからねい」

「はぁ…」

やはり彼は本気だったか…。
それにしても、なんていい加減な親達だ。仮にも一人娘を、まだ見た事も会った事もない男に"喜んでどうぞ"なんて…あり得ない。
否、あの人達ならあり得るか。

何故なら以前、両親にマルコ先輩とお付き合いをしている事を告げた時、それこそ初めはどんなやつだと煩いくらいに聞いてきたのだが、彼が、白ひげ財閥の跡取り息子と伝えた途端、急に態度を変え、電話の向こう口で小躍りしていた程だ。
それは"喜んでどうぞ"と言う筈だ。

しかし…彼にあの両親を会わせるのは少し恥ずかしい。だって両親は間違いなく彼の事をそういう風に見るに違いない

「ほんとに行くんですか?このまま観光して帰りません?」

「何言ってんだい、挨拶しないとケジメがつかねえだろい」

「はぁ…」

「何の溜息だよい?」

「え?あぁ、幸せの溜め息ですよ。幸せの」

「なんだか棘のある幸せだねい?」

「そ、そんな事ないですよ。まだ…着きませんよね?少し寝てもいいですか?」

「あぁ、いいよい。おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

もう逃げ場がないと諦めた私は、頭の整理と、これからの対処法をするべく視界を遮断する事にした。
さぁ、考えよう。婚約したとして…あ、その前に両親の対処法を考えなければ…

「………」

「…………」

「ちょっとマルコ先輩っ!「

先程寝てもいいと言った筈の彼の手がゆるゆると私の太股を撫でてきて、全く集中出来やしない。

「だってよい…#name#と婚約できるなんて、嬉しくてよい」

「っ! それと太股撫でるのと何の関係があるんですか!?」

「関係?んなもん、色々とあるに決まってんだろい」

「………はぁ」

「ったく、溜め息ばっかついてねぇで寝てろい」

「じゃぁ触らないでくださいよ…」

「…いいじゃねぇかい」

「ダメですよ…」

そんな油断も隙もない彼から12時間もの危険なフライトを何とか乗り切り、無事〇ューリッヒ空港へと降り立った私達。

「んー、さすがに長かったねい」

「んー、ですね。私は別の意味でも疲れました」

「ククッ、そうかい」

「……」

そんな長旅で凝り固まった体を解す様に、二人して背伸びをしていると、現地の人らしき人に話し掛けられた。

『Entschuldingung?』

「あ、#name#。スイス語は話せるのかい?」

「えーっと、基本スイス語ってないんですよね、主にドイツ語なんですよ」

「じゃぁドイツ語は話せるのかい?」

「いえ。挨拶程度しか話せません」

「おぃ…」

「大丈夫ですよ!観光地だし、英語で十分通じます!」

「そうかい…あー、Is it for some?」

『Ist und bleibt heute ualich?』

「あ゙?何言ってんのか分かんねいよい」

「ホテルがどうのこうのいってますよ…多分」

「ホテル?あー、勧誘かねい?」

「んー、でしょうね」

「It is in timeよい」

「ふふ。マルコ先輩、よいって」

「仕方ないだろい、口癖だい」

『Ich kann von wo…』

「煩せぇよい!まだ居たのかい!何言ってるか分かんねぇしよい」

「わゎ!い、行きましょう?」

「ったく、英語通じねぇじゃねぇか」

「あれー?あ、きっとあの人勉強不足なんですよ」

「あー、どっと疲れたよい」

そんな瞬間湯沸し器を引っ張りながらホテルに辿り着き、もう疲れたと駄々を捏ねる彼の希望で観光は明日に持ち越された。

「晩御飯はルームサービスでいいですか?」

「おぅ、適当に頼んでてくれよい」

「はーい」

不安要素もてんこ盛りだが、彼との初海外旅行だ。
思う存分楽しもうと、明日会う事になっている両親を頭から追い出し私はフロントへと繋がる受話器を手に取ったのだった。


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