愛した彼女は不透明 | ナノ

12 兄の役目 LAW視点



午後の診察も終わり一息つこうと自室の部屋で珈琲を啜っていると、ふと窓の外に見慣れた姿を捉え目線を奪われた。

エントランスと歩道の境目辺りに佇む#name#と…金髪の男の姿。#name#が親しげに話している所を見るとアレは例の美味い魚を食わせる店の男に違いない。暇な訳じゃないが特にする事もなかった俺はそんな二人の様子を観察してみる事にした。

じっくりと目を凝らしたが肉眼では表情まで窺えない距離にもどかしさを感じた俺は、引き出しから双眼鏡を取り出し窓を開け身を乗り出してピントを合わせる。レンズ越しだが距離にして一メートル程まで近付いた目線はまず#name#の表情、そして美味い魚を食わせる店の男に移動する。

#name#の首を傾げる様子が多少気になりはしたが、美味い魚を食わせる店の男の更に困り果てた表情に心の中でそっと謝罪した。間違いなく#name#が困らせているに違いない。

そうしてにこやかに微笑む#name#を見届け腰を下ろす。どうやら解決したようだ。それにしても妹が惚れた今回の男は摩訶不思議な髪型をしていた。アレはキテいるのか?そんな歳には見えなかったが早くからくるやつもいる事はいる。兄として些か気になった俺は、良く効くと評判で市販では取り扱っていない最新の育毛剤を取り寄せようと受話器を上げた。

それから数時間後、仕事を終えた#name#が顔を出し何やら真剣な面持ちで携帯を差し出してくる。

「なんだ?」

「マルコさんが何気ない日常をメールしてくれだそうです!でも…よく打ち方が分からなくて」

「メールか…。#name#の日常を送れと言ったのか?」

「はい!些細な事でいいらしいんですけど…」

「よし、任せろ。それと今日は外食してくるから先に帰っておけ」

「はい!」

「さて、メールだがーーー」

毎度の事妹には手が掛かる。そんな所がまた可愛らしいのだが、何気ない日常とは一体なんだ?まぁ、何でもいいと言っているのだから#name#の素行を全て書けばいいのだろう。全てか…長いな。


そんな面倒な注文をしてくる男だが妹が惚れた相手だ。心が綺麗でいい奴なのだろう。しかも美味い魚を食わせる店で働いているというのもポイントが高い。そうしてすっかり陽が落ちた時間帯に病院を出た俺は、急ぎで取り寄せた育毛剤を手にその店へと足を向けた。

ものの数分で辿り着いたその店は居酒屋にしては小綺麗で、造りはどちらかと言えば洋風に近いイメージだ。しかしこういった店にはあまり出向いた事がなく少し戸惑いが生まれたが、美味い魚の誘惑に勝るものはないと扉に手を掛ける。

店内に入るとそこそこ席は埋め尽くされており人気の程が伺えた。そうして入り口に佇んでいた俺に気付いたそばかす顔の男がカウンターへと案内してくれる。

通された席に腰掛けながら直ぐにでも育毛剤を渡そうとしたが生憎姿が見えない。まぁ、店は間違っていない筈だとメニューを開くも一体#name#がどれを美味いと指したのか分からない。
聞いておけばよかったと後悔するも店にある魚料理を全て注文すればいいだけの話だとメニューを畳んだ。

「え?全部ですか?」

「あぁ。順々に持ってきてくれ。それとカルピスを」

「は、はい…」

「…………」

俺の注文にあからさまな疑問顔を向けたそばかす男に負けじと疑問顔を投げ掛けてやる。魚にはカルピスだろうと意を込めて。

それから再び店内に目線を向ければそこで漸くお目当ての金髪を捉えることができた。

指示を出している所を見るとそれなりの立場なのだろう、それにしても愛想のない顔だ。接客業はもっと笑顔を振り撒いた方がいいんじゃないのか?まぁしろと言われても俺は絶対に御免だが。

そうして片時も目を離さず暫く観察していると、何度か目線がかち合った。一度目は何か注文でもあるのかという問うた目。二度目はまだ見てるのかという不振な目。三度目ともなると苛立ちを含んだ目付きに変わり結構短気なんだなと思った所で香ばしい匂いが鼻孔を擽った。

「お待たせしました、まず焼き魚と刺身ですね」

「あぁ、待ったぞ」

「…、食い終わる頃次お持ちします」

「あぁ、頼む」

取り敢えず観察は一旦中止し、運ばれてきた料理に向き合った。#name#が言った通り美味い味のそれらにさすが俺の妹だけあって幼い頃から鍛え上げられた味覚は大したものだと感心する。それから次々と運ばれてくる美味い魚を一つ残さず平らげ席を立つ。かなりの量はあったがまだ入るだろう。それくらい美味い魚だった。

レジへと向かいながら渡しそびれている育毛剤を思い出しふと足を止めれば、幸運な事に渡したい相手が会計をするようだ。

「魚。美味かった」

「…ありがとよい」

「あー、それとこれを受け取ってくれ」

「?」

「邪魔したな」

不振そうに袋を受け取る美味い魚を食わせる店の…いや、今からは弟と呼ぶ事にしよう。弟は袋と俺を何度か見比べた後再びお礼の言葉を口にした。

大したものではないがこういうナイーブ事情はそっと手助けしてやるものだと頷きながら、美味い魚に腹も心も満たされ兄として最適な贈り物も渡した俺は満足気に家路へと足を向けたのだった。

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