愛した彼女は不透明 | ナノ

06 訪れた恋心



一体何個剥いたんだと思うくらいてんこ盛りの桃を食わされた後、全部食い切った俺に満足気に微笑み脱衣場から姿を消した#name#に盛大な溜息と水っ腹に不快を覚えながら漸く下着を身に付ける事が出来た。

理解不可能な行動におのずと寄った眉間の皺をそのままにリビングに向かえば、頭は既にドラマに切り替わっているのだろう苦戦気味にディスクを差し換えている#name#の姿に自然と寄っていた皺が緩んでいく。

「やり方わかるかよい?」

「んー…チャンネルはどこに合わせたら…」

「ここだよい」

「あっ!映りました!早く観ましょうマルコさん」

「あぁ…の前に着替えたらどうだい?そんな格好じゃ寛げねぇだろい」

「へ?あ、はい!」


頭の片隅には未だ先程の彼女の反応に疑問符が飛び交っていたが、声を掛け向けられた笑顔はそんなもんどうでもいいと思わずにはいられない破壊力を秘めていた。

清らかで真っ直ぐで、汚れなんか全く知らなそうな、まぁ悪く言えば世間知らずでどこか抜けている感じはするがどうしても憎めない、それにほっては置けない何かを兼ね備えているなと、改めて#name#に対する感情を頭に描きながらそわそわと落ち着きのない#name#に緩む口元のまま着替えを手渡す。

「ほら、早く観てぇんだろ?さっさと着替えてこいよい」

「はい!」

「ククッ…あぁ、今度からよい、そんなお出掛け着みたいな格好じゃなくてもっとラフな格好で来いよい」

「へ?ラフ…ですか?」

「おう。デニムとかの方が寛げるだろい?」

「デニム……あ…私デニム持ってないんですよね」

「は?じゃぁズボン履いてこい。こう…皺なんか気にしなくて…あぁ部屋着持ってこいよい、部屋着」

「部屋着…部屋着って?」

「……は?」

何気無く口にした言葉だっただけに少し驚いた。デニムを持っていない事もそうだが、何より不可解だったのは部屋着とは何なんだと首を傾げる#name#だ。

部屋着は部屋着だろうとその後身振り手振りで説明すれば、へぇとでも言いそうな顔でコクコクと頷き部屋着というものを学習している#name#を怪訝な眼差しで見つめながら、一体どんな環境で育ったのかと少し問いただした。

「は?自分で買い物した事ねぇのかい?」

「はい…ない、ですね」

「……へぇ、そ、そうか」

「あ、でも食べ物なんかは自分で買いますよ?後…シャンプーなんかも…変…ですかね?」

「……あ、いや。人それぞれだろい」

#name#の口から綴られる驚愕の事実に俺の表情は徐々に険しくなっていく。自分で買い物をした事がないとはどういう事だ。じゃぁ誰が買っているのかなど疑問は止めどなく溢れてきたが、そんな様子を不安そうに見つめてくる彼女に気付き大丈夫だと意を込めて頭を撫でてやった。

十人十色。育った環境や生活の常識は人それぞれだ。それを頭ごなしに批判するのはおかしな話だと、かなり引っ掛かる所はあったがそれを頷ける彼女の今までの行動にそれ以上詮索するのは止めておいた。

それから以前同様、ドラマが終わる頃を見計らったように瞼を擦り出す#name#を寝室に連れていき、倒れ込むようにベットへ沈み直ぐ様寝息を立てだす姿に僅に残っていたやましい気持ちを一気に削がれ、このまま#name#とはずっとこの調子でいくのかと多少不安が過りながらも満更でもない自分に苦笑いが漏れた。

そうしてあの日となんら変わらぬただ共に眠るという行為を過し目覚めた俺は、簡単な昼食を見繕いながらコーヒーメーカーと格闘している#name#に手助けしつつ時計に目線を移す。

「もうこんな時間かい。今日は休みだろ?家まで送ろうかい?」

「ん?あ、今日も…泊まってもいいですか?」

「あ?そりゃ…構わないが…俺は仕事だからいねぇよい?」

「待ってます!」

「あぁ…じゃぁ店に晩飯食い来いよい。それまでゆっくりしてろい」

「はい!」

窺うように今日も泊まりたいと口にする彼女に了承すれば、心底嬉しそうに笑顔を向けられ胸の辺りがキュッと掴まれた感覚に襲われた。

俺と一緒に居たいのだと体全体で伝えてくるその様子に悪い気などする訳もなく、取り敢えず食事の手筈を整えてやるというまるで飼い主の様な行動をして家を後にする。

玄関先まで見送りに来たいかにも寂しいと言いたげな#name#の顔が再びトクリと心音を鳴らしたのを感じながら、通い馴れた店への道程を歩く俺の頭は、店へ来たら何を食わしてやろうか、#name#の好物はなんだろうか、そして今日は何の話をして明日はどう過ごそうかと、自分でも不思議な程次々に浮かび上がる思考に恋の訪れを垣間見た気がしていた。

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