愛した彼女は不透明 | ナノ
05 外れた期待
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もどかしく、そして気恥ずかしいような感覚を浅い溜息で逃しながら、ブンブンと尻尾を振り目にはドラマ!桃!と書いてあるような眼差しで俺を見詰める#name#に苦笑いを漏らしつつ再び部屋へと招き入れた。
扉を開ければ一目散にキッチンへと進み直ぐ様桃を取り出す姿に違和感などまったく感じず、その嬉しそうに桃を眺める姿は自然と頬を緩ませる。
「風呂入ってくるよい」
「はい!桃食べますよね?包丁は…あったあった」
「ああ、食うよい。皿なんかも適当に使ってくれ」
「………」
「………………」
おそらく頭の中は桃でいっぱいなのだろう。至極真剣な目付きで桃と向き合う彼女には俺の声など全く届いておらず、無心にせっせと皮を向いている。
あまりにも単純な彼女に思わず眉間に皺が寄ったが、キッチンに立つ女の後ろ姿という破壊的な魅力に再び蘇ったむず痒さを隠すよう風呂場へと足を向けた。
熱目のシャワーに一息吐きながら、#name#は一体どんなつもりで俺の元へ来ているのかと考える。昨夜の様子からして性的な部分を一切感じさせないところを見ると、異性として接しているつもりはこれっぽっちも無さそうに思える。
それはそれで少し勘に触るが、それは俺にも言える事で彼女を責めるのはお門違いというものだ。
決定的な#name#との立ち位置が欲しい訳ではなかったが、それでも真意が掴めない今の状態はモヤリと胸をざわつかせ少し気持ちが悪かった。
そうして風呂から上がり、タオルに手を伸ばし掛けた瞬間ふと頭に過った仮説。
昨日は謂わば初対面。怪しい所だが彼女なりに一線を引いていたかもしれない。そうして今日も俺の元へと出向いたのは、彼女なりのボーダーラインをクリアした俺に対し身体を許す覚悟のようなものが出来たからではないかと、そんな考えが頭を過った。
それならば昨日のあのアホ丸出しの行動も頷けるというものだ。安易に手を出さない事を確かめるような作戦だったのかもしれない。
そうかそういう事かと勝手にこじ付けた#name#の思考に満足気に頷きながら、まどろっこしい真似しやがってと頬が意地悪く上がった刹那、ノックも無しに勢いよく開いた扉の先にまんべんの笑みを浮かべた#name#の姿が映し出された。
「マルコさん!桃剥けました!」
「うぉぉい!?いきなり開けんじゃねぇよい!!」
「へ?それより桃!はいどうぞ、あーん」
「……………」
「ね?美味しいでしょ?」
「…………おぅ」
素っ裸の俺を前に眉一つ動じず桃を差し出す#name#を見て、一気に顔が引き吊るのと同時に彼女の本質を見せ付けられた気がした。
ニヤリと上がっていた口角は今やこれでもかという程引き上がりヒク付いている。
つい先程まで頭にあった憶測を振り返りながら、裸体を捉えた際に少なからず出るだろう恥じらいの素振りが微塵も感じられない彼女に、完全なる思い違いに恥じるよりも落胆の色が強く込み上った。
彼女はやはりアホだ
初見の判断はやはり間違ってはいなかったのだ。そしてどう見ても頭のネジが数本ズレてやがる。
これはもう少し分析を積み#name#との接し方を習得しなければいけないと一人頷いた所で、ふと、ある疑問が頭の中に浮かび上がる。
「おい、#name#おま」
「はい!桃どーぞ」
「………、お前まさ」
「美味しいでしょ?はい、どうぞー」
「ぅっ…………、あのよい、お前まさか処」
「はい!あーん」
「もう要らねぇよいっ!つうか人が喋ってる時に桃食わすな!!」
「え…だって桃って剥きたてが一番おいし」
「桃はもういいよいっ!!それより#name#、お前処女かい?」
「へ?処女?違いますよ、はい、あーん」
「なっ……、ぅがっ!!」
経験がないのなら今までの行動に納得がいくとそう直球で問い掛けようと口を開けば、わざとしているだろうと突っ込みたくなる程笑顔で開いた口に桃を運び込まれる。
何度か言い掛けては中断されを喰らいながら漸く口に出来た問い掛けに、きょとんと小首を傾げさもそれがなにか?と謂わんばかりの口調で返しをする#name#に思わず膝がガクリと折れる。
ならば何故動じないんだと、お前の目に俺はどんな生き物として写っているのかと、そんな疑問が止めどなく溢れてきたがそれよりもだ。それよりも、今一番頭を悩ませていたのは、俺は一体いつまで素っ裸のまま桃を食わされなきゃならないのだという事だった。