短編or番外編 | ナノ
10 バナナの育て方
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「ぅ…」
「……」
「ぅ…」
「……起きたかい?」
「ぅ…ぇ、み、水ぅ…」
「……チッ」
ズキズキと苦痛の大合唱を奏でる頭で目を覚まし、聞き覚えのある声に反応するよりも先に水分補給を優先した。
差し出されたミネラルウォーターを勢いよく傾けながら、このデジャブの様な光景に取り敢えず記憶を呼び起こす。
「はぁ、生き返った。ふぅ…で?何で私はバナナの家に?」
「…サッチから連絡あってよい」
「なるほど!ありがとう!」
「……」
思った通りの返しにうんうんと納得しながらも、じとりと突き刺さるような視線に嫌な予感が駆け巡る。
昨夜明るみに出たバナナへの想い。自ら伝えるならまだしも第三者からの伝達は非常に避けたい。
「ぁ…今日は…バナナも休み?」
「…あぁ」
「そうかそうか。休みなかったもんね、たまには息抜きしなきゃね、うん。あ、じゃぁ帰ろうかな」
「お、おぃ」
未だに視線をピクリとも動かさず此方を見据えるバナナに嫌な予感は募るばかりだ。
別に隠す必要もなければ出し惜しみしている訳でもない。
例えバナナの気持ちが既に消え失せてしまっていても、想いをぶつけ玉砕する覚悟も根性も持ち合わせている、つもりだ。
しかし寝起きの、しかも既に私の気持ちを悟っているとしか思えない今の状況は頂けない。
此方にもペースというものがあることを是非とも配慮して欲しいと一人願いながら、当たり障り無い言葉をつらつらと投げ掛け逃げるようにベットから抜け出した。
「逃げるたぁいい度胸だよい。で?…俺に言うことはねぇのかい?」
「え!?あ、あー、お世話になりましたどうもありがとう」
「………俺がお前を引き抜いた事を後悔してる、だったかねい?」
「ぇ…」
「後は…期待に添えなくて不甲斐ない、だったかい?」
「ぅ…」
「ククッ、それから…俺との時間が取れなくて悲しくて苦しくて胸が張り裂けそうな程好きで堪らないだったかい?」
「っっ!?」
いそいそとリビングに逃げ込めば、一息吐く間もないまま恐ろしく低い地鳴りが鼓膜を駆け巡り背筋がひやりと凍り付いた。
ゆっくりと振り返れば、入り口に寄り掛かって偉そうに腕を組んだバナナが不適な笑みを浮かべたまま、態とらしく昨夜の事実を捲し立ててくる。
そんな言葉を引き吊った顔で訊きながら、いつもの倍に細めた目を容赦なく投げ掛けまるで獲物を追い詰めたようなドヤ顔に、羞恥心よりも堪らなく腹ただしさを感じていく。
「な、内容的にはそうだけど、胸は張り裂けてない」
「あぁ?死ぬほど好きなんだろい?俺の事が」
「…死ぬほどじゃないし。ってもう!サッチさんから聞いたの?そういうのは聞いても聞かなかった振りをするもんでしょ!?」
「いや、お前の口から聞いたよい」
「はぁ?いつよ」
「……俺も居たんだい、あの店に」
「はぁぁぁ!?いつから?なんで!?」
「…お前が泣き崩れる少し…前からかねい?」
「っっ!?何で居んのよっ!?」
「…たまたまだよい」
「さっきはサッチさんから連絡あったって…」
「言ったかい?そんな事?」
逃げ場のなくなったこの現状に修正を入れつつ頷けば、ニヤニヤと厭らしい笑みを惜しみ無く披露するバナナからまたもや耳を疑いたくなる言葉が吐き出された。
いつの間に店内に潜り込んだのかだとか、それなら何故声を掛けなかったのだとか、そんな疑問を無理やり閉じ込め代わりに抑えていた溜息を吐き出す。
「じゃぁ…もう一度言っていい?」
「っ、お、おう」
「私…」
「おぅ」
「私…バナナの」
「…の?」
「バナナの為に…」
「…為に?」
「全然役に立ってないよね?ごめんね、ほんと」
「はぁぁぁ??」
先ほどまでは言うつもりだったそれは、バナナのドヤ顔によってくるりと踵を返し代わりに悪戯心に火を点ける。
当然の様に愛の言葉が飛び出すと思っていただろうバナナは、そんな的外れな展開に極上に間抜けな顔を披露してくれた。
好きだけど腹ただしい。
そんな想いが頭を満たす中、呆れたような吐息と共に体がふわりと包み込まれた。
「わっ、な、なに?」
「好きだよい」
「っ、ぇ…」
「#name#、お前が好きだ」
「バ、バナナ…。どうしたの?熱でもあるの?」
「何でだよい…」
「だって前は言ってくれなかったくせに」
「あぁ、お前が俺の事好きだってわかったからねい」
「はぁ?何その打算的な考え」
「…いいだろい、別に。ほれ、次はお前の番だよい」
「ぁ…フフ、バナナ相手なのに何か照れる」
「……締め殺していいかい?」
「ぐぇ、痛い痛いっ!い、言うからは、放して」
「……さっさと言えよい」
「痛っいなぁ…もう。あ、好き、好き好き」
「……なんだいそれは」
「十分っしょ?」
突然のバナナからの告白に胸がキュッと締め付けられた。
まだ好きでいてくれた事実に喜ぶ一方で、バナナらしからぬ行動に若干戸惑う。
そんなこの先拝めるか分からぬバナナの真剣な眼差しを焼き付ける隙もなく、何故か無性にむず痒くなった体が選んだのは神秘性も欠片もないふざけた告白だった。
だって仕方がない。バナナを好きだと言う自分も、潤んだ瞳で言葉を待つバナナも、何もかもが笑いの蓋を開けまくる。
「フフフ、おかし、私バナナと両想い?ぷっ」
「笑う要素が見当たらねぇよい…」
「え?笑いのツボが違うのかな?それ痛いね」
「痛かねぇよい、はぁ…まぁ、これから俺好みに調教してやろうかねい」
「調教?バナナが言うと凄い卑猥に聞こえる。あ、じゃぁ私は完熟目指して栽培してあげるね」
「…栽培?」
「え?だって人は調教や育成でしょ?動物は飼育、果物や植物は栽培じゃないの?」
「……お前」
「ね?楽しみだね」
「…そうだねい」
バナナと想いが通じ合ったのは嬉しいけれども、ではこの無情なまでの二週間は一体何だったのかーー
この内情はこれからちくちく問い詰めるとして、私達の一般的恋愛事情はまだまだ先のような気がして気が思いやられるが、それでもこの少し曲がったバナナがとても愛おしく、そしてとても大切に思える自分がいて、未だ包み込まれている体から何か不思議な意欲と、おかしなくらい幸せな気持ちが溢れ出すのを感じていた。
「んー、バナナバナナ!!」
「…この先バナナって呼ぶの禁止だよい」
「はっ?何で!?」
「彼氏にバナナって…あんまりだろい」
「えー、そお?可愛いと思うけどな…その辺も感覚違うね、栽培しなきゃ」
「……」
おしまい(θжθ)
むりくり完結ですいやせんm(__)m
こんなバナナにお付き合いくださりありがとうございましたm(__)m
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