短編or番外編 | ナノ


09 バナナの豹変


「おい!なにやってんだい、全然進んでねぇじゃねぇかい」

「ぁ…ごめん、メニュー覚えが悪くてさ、進まないんだよね」

「あぁ?遅ぇよい!何日経ったと思ってんだい、ったく」

「なっ!?大体ねぇ、私一人で新人全員の教育してるんだよ?手こずるに決まってんじゃん!」

「チッ…今日中に終わらせて次進めよい」

「今日中!?むりむり!あっ!ちょっ…もう」

結局バナナから確かな言葉をもらえぬまま慌ただしいくらいの開店準備が始まってしまい、あの日からまともに会話すら出来ない状況が続いていた。

開店準備と研修を兼ねた時間は概ね夕方まで。その後色々とする事があるのだろうバナナは、皆が帰った後も一人店に残り黙々と作業をしている始末だ。

となれば、必然的に共に帰宅していた私も残るつもりでいたが、初っぱなから有無を言わさぬ口調で先に帰れと言われてしまえば従うしかない。

そんな日々があの日から二週間。そうして唯一顔を合わせる店内でも、まるであの日の出来事は嘘か幻だと思わずにはいられない程の素っ気なさで振る舞われ、ピリピリと全身から放たれる近寄りがたいオーラで話し掛ける事すら叶わない。

確かに今のバナナには恋愛どうこうの余裕はないだろう。それは分かる。分かるけれどもだ。宙ぶらりんな対応で想いだけぶつけられた私の気持ちはどうしてくれようか。

そんなバナナを気付けば常に視界に入れ始めている自分にもやもやとした感情が沸き出る中、知らず知らずの内に人前構わず溜息が盛大に漏れ出していた。

「はぁ…」

「ん?どしたの溜息なんか吐いて、幸せが逃げちまうぜ?」

「あ、サッチさんか…。何でもないですよ」

「何だよ水臭いな、悩み事なら訊いてやるぜ?」

「悩み事は…言いませんが…」

「ハハッ、なんだよそれ」

「今夜…暇ですか!?」

「お!?おぉ」

浮かない顔の私に食い付いたサッチさんを強引に引き込み、どうせ一人家に帰った所で溜息のオンパレードだと踏んだ私は、このやり場の無いもやもやを晴らすため憂さ晴らしへと繰り出す事にした。

そんな人の良いサッチさんを引き連れ向かった居酒屋。やけ酒の如くグラスを傾ける私に若干引き気味な眼差しを向けながらも、彼の持つ誰にでも優しく変わらぬ態度にじわじわと荒んだ心が開き出すのを感じる。

「#name#ちゃん飲み過ぎじゃない?俺#name#ちゃん家知らないぜ?」

「あー、潰れたらその辺に…捨てていいで、す」

「そうはいかないだろ…、なぁ?何かあったのか?」

「っ…バ…」

「ん?ば?」

「バ…ナナが…バナナがぁー!!!」

「うぉ!?#name#ちゃん!わ、泣き上戸かよ」

何が起爆剤になったのか訳もわからぬまま、溜まっていたものが涙と共に一気に溢れだした。

憂さ晴らしを目当てに飲んだ筈だったアルコールは、憂さを晴らす所か益々感情を地の果てまで落としてくれた。

そんなもう一人では立ち直れない程のダメージを抱えた私は、わんわんと嗚咽を伴いながら傍らで宥めるサッチさんにすがり付くように胸の内を吐露していく。

バナナの期待に添えていない事。バナナはきっと私を連れてきた事を後悔しているんじゃないかという事。
そして、あの日からバナナの態度が変わり苦しくて悲しくて、気になって気になって仕方がない事。

そんな想いを口にした途端、靄がさーっと晴れるような感覚に襲われ思わずハッとした。

あぁ、私はバナナが好きなのか、と。

「ハハッ、そうかそうか。#name#ちゃんはマルコが…ぇ?ちょ#name#ちゃん?#name#ちゃーん?」

その気持ちに気付くと同時にふわふわと心地好い浮遊感が体を駆け巡り、清々しいまでの爽快さを感じながら意識が遠退いていく。

サッチさんの少し焦燥感を含んだ呼び掛けを子守唄に閉じた瞼の先には、何房も実りに実ったバナナがふてぶてしいくらい大量に映し出されていた。




「収穫しなきゃ…」

「え?何を?」







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