短編or番外編 | ナノ


07 バナナは横暴


あの後黙りを決め込んだバナナは何事もなかったかのように私を送り届け、目も合わさずスタスタと暗闇に消えていった。

そんな摩訶不思議な行動はさておき、夜な夜な思考を巡らせ出た結論は私の頬をだらしなく緩ませ、それと同時に僅かな優越感を心に広がらせた。

「ふふふ…」

「……気色悪ぃ顔で見るんじゃねぇよいブタ女」

「だって…ふふ」

「っ、……あのよい」

「おいマルコ!社長が呼んでるぜ!」

「っ、お、おう」

「あ、ちょ、……社長って、バナナなんかやらかしたの?」

「ん?いや、今度もう一店舗オープンすんだ。それをマルコに任すみたいな事言ってたぜ」

「新店舗を…バナナに…?」


顔を合わすなりニマリとした表情をバナナに向ければ、ピクリと片眉を上げいつものように悪態を投げ掛けてきた。

そんないつも通りのやり取りでさえその真意を知ってしまった今、込み上げる笑いを必死で堪えるのに一苦労だ。

昨夜行き着いた先に見えた真相。あれは紛れもなくバナナからの告白に違いない。

そう結論付ければ今までの悪事が全て可愛く見えてくる。好きな子ほど苛めたくなるという小学生並みの愛情表現はかなり笑えるが、バナナだから仕方がない。

そんな私も悪戯にからかっているのだから人の事は言えないのだけれど、気持ちは伝わったにしろアレは告白にしてはアバウト過ぎて此方も正直対処に困るというものだ。

そうして何か言いたげな顔のままその場を去ったバナナと引き替えに聞かされた話に、祝福半分、それでいて何かもやりとした心境が私を襲った。

「お、マルコ何だって?」

「あ、あぁ。新店舗の店長してくれってよい」

「まじか!?すげぇじゃねぇか!よかったな!」

「あぁ、ありがとよい」

「……っ、す、すごいじゃん」

「おう」

暫くして戻ってきたバナナはいつも通りの口調でさらりと問い掛けに答え、その特に喜ぶでもない態度も嫌味など感じず当然の結果のように思えた。

バナナはあんなだが仕事は出来る。彼を慕い尊敬する声を聞いたのも一度や二度ではない。確かに新店舗を任せるならバナナが適任だと私も思うのだけれど、となるとだ――

「おい、帰るよい」

「へ?あ、うん」

「なんだい?今日はぼっさっとし過ぎじゃねぇかい?グラスも割ってたろい」

「あ、あー、うんごめん」

「……」

これといって何がどうとか、これがこうだのとハッキリとはしていないのだけれど、バナナの出世話には手放しで喜べないものがあった。

新店舗を任される。それイコール今の店には居られない訳で、それが寂しいといえば寂しいようでそれでも釈然としないものが胸につっかえて息が苦しくなる。

「おい、いつまでそんな顔してるんだい?」

「え?あ、うん、いやさ、新店舗任されるって…」

「あ?あぁ、来週から準備やらがあるらしいよい」

「来週…じゃぁもう店には来ないの?」

「まぁ…通常シフトには入らないだろうねい」

「っ…、そっか」

予想はしていたが、やはり直接聞くそれは私の胸をぐにゅりと掴み呼吸の邪魔をした。

来週からバナナが居なくなる。嫌でも顔を合わしていた相手だけに、その事実を受け止めた途端やけに鼓動がざわつき喉までもカラカラに渇いていく。

「なんだい?黙り込んで。もしかして寂しいのかよい?」

「っ、そんな訳ないじゃん。たださ、帰りが一人になっちゃうなって」

「あーそうだ…ねい」

「一応これでも女の子だからね、夜道は危ないし…それに…怖いし」

「なぁ#name#」

「っ、な、なによ、名前でなんていつも呼ばないくせに」

「あ?ったく、あのよい、……来るかい?」

「ん?主語がない主語が」

「チッ。頭の悪い女だよい。新しい店に来るかいって言ってんだい」

「は?な、なんで?」

「三人。今の店から三人連れてっていいってよ。俺と…サッチ。後一人、まだ決まってねぇんだよねい」

「……」

「お前が来たいって言うならよい、連れてってやってもいいんだけど…よい」

「…来てくださいの間違いじゃなくて?」

「あん?てめぇ人が折角」

「か、考えとく」

「………三日後までな。後…昨日の返事も聞かせろよい」

「はい?厚かましくない?それ」

「なんでだよい…。とにかく三日後な、じゃぁねい」

「あ、ちょっと!」


言い捨て御免とばかりに猛ダッシュをかますバナナに唖然とした視線を送りながら、そのあまりにも横暴な言い様にげんなりと溜息が漏れた。

既に影も形もないバナナが消えていった暗闇を見つめやはり私の推測は当たっていたなと自賛する一方で、まともな告白さえされていないのに返事をせがむバナナをどうしようもなく……子憎たらしく感じていた。







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