短編or番外編 | ナノ


06 バナナは動き出す


「よっし!終わった終わった!携帯携帯…」

「#name#ちゃんご機嫌だな、なになに?携帯がどしたの?」

「えっとですねぇ…あった!イケメンからの着はっ!?」

「どれどれい?へぇー、世の中変わった奴もいるもんだよい」

「ちょ、返してよ!ちょっと!もう!届かないっ!!」

「よいっ、よいっ、よーい」

「ふざけんな!返せっ!あー!もうっ」

普段より何倍も張り切り終わらせた閉店作業と同時に、飛び付くように取り出した携帯電話。

期待を裏切る事なく画面に映し出された不在着信を目にした途端、それは一瞬で私の手から姿を消してしまった。

驚きもさて置き消えた電話を追い掛ければ、無駄に縦に伸びたバナナが天高くそれを掲げ人を小馬鹿にした語尾を連発している。

「もうっ!何すんのよ…あれ?……ぇ……消えてるし!?」

「おー悪ぃ悪ぃ。変なボタン押しちまったかねい?」

「この…バーナァーナァー!!」

漸く取り返せば先程まであった筈の番号が消えており、顔面蒼白で何度も目を凝らし確認する私に聞き捨てならない言葉が耳を襲う。

「信じられない最低最悪死ねバナナ」

「煩いねい、済んだ事をネチネチよい」

「折角のイケメンとの接点が…。終わったら電話するって約束したのに…」

「……縁がなかったんだろい、諦めろい」

「…一生恨んでやる、縦長バナナめ」


何食わぬ顔で運命の出逢いを台無しにしたバナナに、渾身の恨みを含ませた眼力を飛ばしながら暗い夜道を歩く。

何の因縁かバナナと私の家は徒歩三分程の距離にあり、防犯も兼ね深夜に閉店する職場からの帰りはいつも二人で二十分程の距離を歩いて帰っていた。

しかし今日程この空間が億劫に感じた事はない。
いつもいつも意地悪や嫌がらせを受けてはいるが、今回ばかりは心の底からバナナが憎くて仕方がない。

「ったく、いつまで怒ってんだよい」

「怒るよ、いっつもいっつも意地悪ばっかりして」

「……別に意地悪なんかしてねぇよい」

「してるよ!?がっつりしてるよ!?無意識とか救われないんですけど!!」

「……してねぇつうの」

「まだ言うか!もういい」

「…っ、待てよい…」

意地悪をされていると改めて口にすれば、それはみるみる自分を惨めにしやりきれない怒りが相手に沸き起こる。

考えてみれば随分と長いこと、大小なり嫌がらせや苛め紛いな事をされてきたのではないだろうか。

そんな過去を思い出せば湧き出る怒りは重みを増す一方で、静まり返った道程によく響く背後からの呼び掛けが更に沸点をあげていく。

「もう煩い!一人で帰りたいから少し離れて歩いてくれる!?」

「はぁ…悪かったよい、んな怒んない」

「怒るよ!もう何でいつも嫌がらせばっかりするわけ!?本気でむかつくんだけど」

「……」

「理由があるなら言いなさいよ!私なんかした!?」

「……」

「無言とその顔がむかつく!もうほんといい!バイバわっんんっ!?」

「…………、そういう事だよい」

「……ぇ」

「ほれ、置いてくよい」

言葉を遮るように塞がれた唇。

そんな不意討ちでも何をされたかなんて一目瞭然で、意外過ぎるその行動の意図を推し測るよりも、自分がやけに冷静な事よりも、振り向き私を促す目の前のバナナの顔が耳まで赤く染まっていた事が何よりも可笑しくて、そして少しだけ可愛かった。








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