短編or番外編 | ナノ


01 バナナは恩知らず


「あのぉ…マルコ様、明日シフト変わってくれないかなぁ?」

「気持ち悪ぃ呼び方すんじゃねぇよい!はん、嫌に決まってんだろいブタ女」

「……。この前変わってやったの忘れた訳?恩を仇で返すんだ、肝っ玉の小さい男だこと」

「あぁ?んだとブタブス女!俺ァ女に命令されんのが嫌いなんだよい」

「命令じゃないでしょ!?お願いだからね、お願い!ってかブタブス!?」

「うっせぇよい。嫌なもんは嫌だよい!他あたれい」

「キィー!ムカつく!この腐敗バナナめ廃棄処分されちゃえバーカー!!」

「あぁん?てめぇこらぁ待ちやがれ!!」

そんな腐敗バナナとはバイト先の居酒屋の同僚で、もう一年近くも週に五日というスタンスで顔を会わすなんとも残念な間柄だ。

黙っていればそれなりにかっこいい顔立ちをしているのだけれど、あの性格だ。男友達はたくさんいるようだが女友達…ましてや彼女がいるなど聞いた事もなければ間違いなく出来ないだろう。

だいたい女性に対しての気遣いや礼儀が全くなっていない。さも当たり前のように吐く暴言に加え口答えでもしようものなら女だなんてお構い無しにヘッドロックやらゴブラツイストを仕掛けてくる。

何度あの痛みに耐えたことか数知れず、以前飲み会であの髪型を小馬鹿にした時にはサソリ固めを喰らって本気で涙を流したほどだ。

そんな狂暴腐敗バナナから必死で逃げ切った厨房で、ゼイゼイと呼吸を整え油断大敵と身を潜めていると呆れた声色が脳天から落とされた。

「#name#ちゃん、またやってんのか?仲良いな、おまえら」

「仲良く見えますか?心外です」

「ははっ、まぁ見えるっちゃ見えるけどな?」

「……あ!サッチさん!明日のシフト…変わってくれたり…しません、よね?」

「明日?何かあるのか?」

「……ご、合コンに…行きたいなぁ〜なんて」

「合コン?ふーん…合コンねぇ」

「ダメですか?明日の休みはバナナとサッチさんだけなんですよね」

「…何か必死だな。わかった!いいぜ」

「ありがとうございますありがとうございます!今度何か奢りますね!」

「おぅ、期待しとくわ。で?何時からどこですんの?その合コン」

「え?あ、はい、えっとですね――」

初めからサッチさんに頼めばよかったと、同じ歳でもバナナとは大違いなサッチさんの寛大さに尊敬の眼差しを向けながら、急遽誘われたイケメン揃いの合コン参加に成功した私はその日、頭に音符をちらつかせたままバイトに精を出したのだった。







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