短編or番外編 | ナノ
カウントダウン W
「それは…」
「なんだい?」
「絶対無理です」
「…そう…言うなよいっ」
「きゃぁー!!」
胸を守るように組んだ腕などまるで役立たずで、シャツの裾からスルリと入ってきた手はそのまま下着共々ずり上げ意図も簡単に胸を握り潰した。
そんなマルコ店長の所業に最大限の奇声を上げジタバタと身を捩れば、それすらも興奮剤とばかりに益々顔がにやけだしやわやわと指先が動きだす。
「ちょ、ぃゃ、店長っ!」
「おぉ…生はまた…いい乳だよい」
「ぁっ!ちょ、店長…やめて…ください!!」
「グェッッ!?」
全てにおいて頂けない行動だが、何を調子に乗ったのか当然のように乳首を摘まみ上げたマルコ店長を力任せに蹴飛ばした。
「#name#…痛ぇじゃねぇかい…」
「だって!つ、摘まむから…」
「あ?そりゃ摘まむだろい?乳首勃たせてる#name#が悪ぃよい」
「はいー!?摘ままないでくださいよ!セクハラです!セクハラー!!」
「クク、そんな真っ赤な顔で照れる#name#はまた一段と可愛いよい」
「っ!?キモい!!」
「あん?」
「ひっ!!」
悪びれもなく堂々とセクハラを正当化する店長に思わず本音が飛び出せば、突き刺しそうな程鋭く睨まれ毎度の事竦み上がった。
何故テストのお仕置きでそこまでされなくてはならないのか、この先この店で働いていく自信がみるみる無くなっていく中、何が可笑しいのか隣から不愉快な笑い声が耳を突き抜ける。
「怒りますよ?何で笑ってるんですか?」
「ククッ、だってよい…にしても#name#、お前ぇはいちいち可愛いねい」
「は?」
「いいよいいいよい、もっと照れた顔見せてくれよい」
「なっ、き、気持ち悪!!」
「あん?誰にむかっ」
「ひぃぃ!ごめんなさいごめんなさい」
「マルコー!店開けてもいいか?」
「チッ、……あぁ、頼むよい」
「り、料理長っ!!」
「おぉ!?」
更に上がる口角を見せ付けるように迫りくる変態店長に遠慮なく罵声を浴びせれば、厳つい態度を存分に醸し出しながら伸びてきた手に悲鳴を交えながら固く目を瞑った瞬間、天の救いとばかりに料理長が現れた。
そんな讃えたい程ナイスなタイミングで現れた料理長にすがるように抱きつけば、背後から恐ろしい程の視線と舌打ちが襲い掛かる。
「おい#name#。今すぐ離れろい」
「い、嫌です!だって店長怖いしセクハラするし!」
「セクハラ?おいマルコ、何したんだ?」
「してねぇよい、セクハラなんて。なぁ?#name#?」
「ぅ…」
「#name#ちゃん?大丈夫だからほんとの事言ってごらん?」
「料理長…マルコ店長が」
「#name#」
「ひぃ!な、なんでもありません料理長お騒がせしましたすみませんでした!!」
「そ、そう?マルコに虐められたらすぐ言えよ?な?」
「はい!そうします!すみませんでした!」
抉られた傷によく染み渡る優しさを向けてくれた料理長に、喉の奥まで出かかった言葉はやはりというかマルコ店長の一声でみるみる胃の奥底まで飲み込まれてしまった。
にこやかな笑みで消えていく料理長に猛烈な後ろ髪を引かれながら、未だに突き刺さる眼力を飛ばしてくる店長に恐る恐る振り返れば、そこには般若が降臨していた。
「こ、怖い…」
「チクろうたぁいい度胸だなぁ…#name#?」
「チクるというか…だって店長があんな事するから…」
「こっちこい」
「ぅ、何もしないって誓うなら…ってか睨まないでくださいよ」
「しねぇから早くこいよい」
「はい……ってほらぁ!!」
「お仕置き第二弾だい」
「もういやぁぁぁー!!」
素直に信じた私がバカなのか、それとも彼の頭がおかしいのか――
ソファに押し倒された頭で考えるも答えなど出る筈もなく、私はただただ腹を空かせた狼に喰われまいと攻防を繰り返すのだった。
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