短編or番外編 | ナノ
カウントダウン V
![](//static.nanos.jp/upload/j/jyuira/mtr/0/0/20110920213509.gif)
いろいろと突っ込み所満載のマルコ店長に警戒の眼差しを向けるも、当の本人は何食わぬ顔で私をソファーへと促し、そして少し考え込むように唸った後、幾つもの書籍やファイルが並ぶ本棚から何冊か手に取ると目の前に分厚い表紙を並べ出した。
「これがフードメニュー、こっちがドリンクメニューだい。全部覚えろよい」
「は、はい!えーっと…ん?これは…何語ですかね?」
「フランス語だよい。下にカタカナでルビうってるだだろい」
「は、はぁ…」
「後でテストするからねい」
「ぇ、は、はい」
気持ちを入れ替え差し出されたメニューを手に取れば未知の羅列がびっしりと刻まれていた。確かに振り仮名はうってある。うってあるが、いかせん発音も意味も全く分からない。
「店長…辞書的な何かを貸してください」
「ん?どれが分からないんだい?」
「っ!?ぇ、あの…全部です」
「全部かい?ククッ、困った子だよい」
「っっ!!」
向かいのソファーに座ればいいものを何故か隣に腰掛け、私の問い掛けと同時に肩を引き寄せ手元のメニューを覗き込む店長にビクリと身体が強張った。
近い。言葉を繋ぐ度にマルコ店長の吐息が鼻先を擽り思わず身を捩り距離を取ってしまう。
「ん?どうした?」
「ち、近いです!それに肩!肩組まなくてもっ」
「ククッ、照れてんのかい?可愛いねい…」
「ぎゃ!」
度が過ぎた行為に身の危険を感じた私は更に距離を取り抗議の声を上げる。
それすらも可笑しそうに喉を鳴らし顔を近付けてくる店長を、今度は力一杯押し返した。
「て、店長!や、止めてください!」
「んー?いいなその反応」
「ぅ…怒りますよ」
「ククッ、わかったわかった。じゃぁフードメニューは置いといて、まずはドリンクの方覚えようかねい」
「っ……はい」
そう言って離れていった体は扉の向こうへ消えていき、数分後、カタカタとワゴン一杯にお酒のビンを敷き詰めて再び現れた。
「さ、始めるか」
「まさか…テイスティングするんですか!?」
「あ?そうだよい。舌で覚えたが早いだろ」
「いや…私お酒弱いんですよね」
「大丈夫だよい、ほれ、始めるよい」
明らかにお酒が弱いと吐いた瞬間、この店長笑った。しかも何か企んだような不適な笑みだ。
嫌な予感をひしひしと感じながら、次々と液体をグラスに注ぐマルコ店長を不審な瞳で見つめる。
「さ、まずこれ飲め。んでこの中から同じもんを当てろよい」
「う…はい」
「先に言っとくが…不正解はお仕置きな」
「な、やっぱり!嫌です!どうせまた如何わしい事を」
「間違えなきゃいいだろ?ん?」
「っっっ!!」
間違いなく酔ってしまう自信とお仕置きというワードに敏感に反応し非難の声を上げるも、毎度の事鋭い目線を目の前に押し黙ってしまう。
何故こうもマルコ店長の威圧感は凄まじいのか。人を従わせる気質が滲み出ている感じだ。
そうして素直に従うこと数十分後。一口ずつとはいえ何杯も立て続けに口にすれば当然クラリとなり目の前が徐々に霞みだす。
「はぁ…」
「ククッ。今からテストだよい、いいかい?」
「…はい」
「フ、じゃぁこの酒は?この中から当ててみろい」
「………」
もう飲めないと言うように漏らした溜息に、クツクツと笑いながら言い渡された言葉がまるで死刑宣告の様に聞こえた。
それでも酔っていると知られたくなかった私は毅然な態度を装い、差し出された液体を口に含んだままぐっと眉間に皺を寄せ思考を巡らす。
しかし、正直今の状態で正解を当てるなんて不可能に近い。それでも答えを急かすように注がれる視線に投げやりな気持ちで一つを指差した。
「これかい?」
「…た、ぶん」
「ブッブーだよい」
「っ!!」
一か八かの賭けに外れたのもショックだったが、それ以上に、ふざけた言葉を愉快そうに吐くマルコ店長に不吉な予感が瞬時に駆け巡りヒヤリと背筋が凍る気がした。
「さーて、#name#…」
「…な、なんでしょう?」
「お仕置きタイムだい」
「っ、ぁ、あの…」
「生乳揉ませろよい」
「っ!?」
そんな至極愉しそうに不埒な言葉を吐きながらじわじわと距離を縮めてくるマルコ店長に、私は今までの人生の中で最大であろう貞操の危機を迎えようとしていた。
← →
![](//static.nanos.jp/upload/j/jyuira/mtr/0/0/20110916090920.gif)