短編or番外編 | ナノ


カウントダウン U




「良かったな、バイト決まって」

「う、うん」

「なんだ?何か問題でもあるのか?」

「ないよ、大丈夫!」

面接の翌日仕事が決まった事を伝えれば、柔らかい笑みを浮かべたロー兄に頭を撫でられ祝われた。

しかし昨日の店長の行動を思い出すと自然と眉間に皺が寄る。あれは紛れもなくセクハラだ。しかも悪びれていない所が質の悪い。

そんな思考を巡らせていればおのずと張りのない声色になってしまい、それを敏感に汲み取ったロー兄が心配そうに窺ってきたが何でもないのだと虚勢を張りやり過ごす。

「あんま無理すんなよ」

「うん…」

「帰りは迎えに来てやるから、電話しろ」

「うん」

相変わらず優しい従兄に喉まで出掛かった言葉をゴクリと飲み込んだ。言おうか迷ったが、言えば間違いなく辞めさせられるだろう。

せっかく決まった高時給バイトだ。また一から探して面接から始めるのも面倒臭い。
それに…、確かにいきなり胸を揉まれ驚きはしたが、それに対して嫌悪感と言うよりは寧ろ羞恥心が強く残った。つまり結果を言えばあの店長に触れられる事はそれ程嫌ではないと言う事なのだろう。

それに信じがたいがあれは採寸だと言っていたじゃないか。変に意識するのも悪循環を招くだけだと、そう結論付いた私は昨日の事は忘れてしまえと気持ちを入れ替え仕事へ行く支度を始めた。


そんなリセットした頭で店の門を潜れば、すぐさま昨日のリーゼント頭の彼が駆け寄ってくる。

「あ、お疲れ様です」

「おおおぉ!初の女性従業員!俺はこの日をどんなに心待ちにしてたかっ!わからない事は何でも聞いうぉ!?」

「っ!?」

「ベタベタ触るない、ったく」

「うぐぐ…、ひでぇなマルコ…」

「ふん。おい!みんな集まれい」

目の前に来るなりガシリと手を握られ、その手をブンブンと振りながら瞳を潤ませつらつらと言葉を並べるリーゼントさんに呆気に取られていると、突如現れたマルコ店長の手刀が繋がれた手をスパリと引き裂いた。

一瞬何が起こったか分からず狼狽えたが、じわりと痛みを訴える手に正気を取り戻し何も私まで叩く事はないだろうと少し反抗的な眼差しを向けるも、何食わぬ顔で声を張り上げ集合をかけるマルコ店長に諦めの溜息が漏れる。

「今日から仲間になった#name#だい。ほれ、挨拶しろよい」

「は、はい!#name#です。ふつつか者ですがよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくな、あ、俺は料理長のサッチだ」

「俺はエース。わからない事は何でも訊いてくれ」

それから十人程の従業員皆から自己紹介を受けペコリとお辞儀を繰り返す。

その間も当然のように肩に置かれたマルコ店長の手が気になったが、言うだけ無駄と判断し無理やり笑顔を貼り付けた。

「ま、こんなもんかねい。#name#こっち来い」

「はい。失礼しました」

再びお辞儀をし店長の後に続けば、背後からざわざわと蠢きが上がる。
その中で微かに耳を掠めた『マルコばっかり狡い』という単語が酷く頭にこびりついた。それは一体どういう意味だろうか。


そうして入れと促された先は昨日面接をした部屋だ。

「聞いての通り女を雇うのは初めてでねい。当然だが女子更衣室なんてねぇ訳だ」

「は、はい」

「つう訳でここが#name#の更衣室だ。んで、これが制服な」

「はい、わかりました」

「よし、早速着替えろい」

「はい。……あの」

「なんだい?」

「着替えたいんですが…ご退室を…」

「あ?気にすんない、なんなら手伝ってやろうかい?」

「はい!?いや、出ていってください!」

何を言い出すかと思えば、昨日に引き続き今度はセクハラ発言をする店長に絶句する。そんな馬鹿げた言葉を頑なに拒否し続けた結果、あからさまに不機嫌な態度で部屋の角に簡潔なパーテーションを取り付けてもらった。

丸見えよりは幾分ましかと、首から膝下までを隠す頼りない空間の中で着替えをするも、与えられた制服に腕を通した途端、私はまたもや絶句した。

「マルコ店長…このシャツ…少し小さいみたいなんですが」

「んな筈ねぇだろい。ちょっと見せてみろい」

「え、いや、ちょっと…わっ!」

「いいじゃねぇかい。ピッチリ胸のラインが見えてよい」

「それが問題なんですけど…」

「あ?#name#のサイズに合うように急ぎでオーダーしたんだい、文句あるのかよい?」

「え?いやいや、でもこれはちょっと、」

「あん?」

「っ、な、なんでもありません!」

もじもじと制服に異論を唱えていると、少し口元を緩めながら近寄ってきた店長によってパーテーションが開かれる。

私を見据えた途端更に上がった口角と共に繋がれた言葉は耳を疑うものだったが、やはりと言うか、私の意見は聞き入れてくれる筈もなく、その有無を言わさぬ鋭い眼光にコクコクと頷くより他はなかった。

そんな私は気持ちを入れ替えた数時間前を非常に後悔する羽目になる。

これはどこからどう見ても新たにパワハラが加わって、題してパワセクハラだと、そうひしひしと感じた。


「ん…、もう一個くらいボタン外してもよくねぇかい?こう、よい」

「っ!?」

「いいねい…谷間が素晴らしいよい」

「……は、はぁ」

「谷間にペンなんか挟むっつうのも有りだねい」

「……」







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -