短編or番外編 | ナノ
カウントダウン T
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大学に行かず遊び呆けた結果、留年決定を喰らった私はそんなの御免だと独断で後一年を残し中退してしまい、激怒した親と口論の末咄嗟に家を飛び出したはいいものの、何の計画もなしに鞄一つで足を踏み入れた右も左もわからない土地を目の前に窮地に立たされていた。
計画がないと言っても住む場所には宛はある。確か二つ上の従兄がこの土地に住んでいる事は確認済みだ。
しかし不運な事に知らされていた携帯は現在使われておりませんの一点張り。変えたなら連絡しろと悪態を吐きながらも今年届いた従兄からの年賀状だけを頼りに、電車に乗りバスに乗りまた電車に乗りと、現在私は迷子だったりする。
そうしてやっとのことで目的地に辿り着いた頃には既に辺りは真っ暗闇だった。
「あ、ロー兄?あたし、#name#!開けて?」
「……は?」
私の自慢の従兄ことロー兄。頭もよくて優しくて見てくれもいう事なし。まさにパーフェクトな従兄だ。
そんな従兄を頼りに何のアポも取らず出向いたのはいいものの、突然現れた私にまさに怪訝といった表情で出迎えられた。
「―で、家出してきたと?しかも俺んちに?」
「そそ。あ、でも家出じゃなくて自立ね、自立」
「……自立してねぇぞ」
「働くし!生活費自分で稼ぐし!だから…暫くお世話になります」
「はぁ。お前…働いた事あんのか?」
「ない」
「…ま、何事も経験だな」
ロー兄の淹れてくれた珈琲を啜りながら、取り敢えずは住む場所を確保し安堵の溜息を吐く。
明日は仕事探しだなと意気込みながら、これから始まる新生活に僅かな期待が芽生えだしていた。
「ほら、合鍵。後俺の携帯番号もメモリに入れとけよ」
「わ、ありがとうロー兄」
「迷子になったら電話しろ」
「ヘイヘーイ」
努めて優しいロー兄は、この辺りの地図や昼食まで用意して部屋を出ていった。
そんな従兄に甘えるだけ甘えてやろうと企みながらもらった地図と求人誌をにらめっこする事数時間。私はある飲食店に狙いを付けた。
少し家とは離れてるが交通費支給と書いてある。飲食店なので賄い付き。しかもなにより時給がいい。
思い立ったらなんとやら、早速電話を入れれば直ぐに面接をしてくれるとのこと。急募とは書いてなかったが私はその日の内に店へと足を向けるはめになった。
そうして迷うことなくお店に辿り着けば、決してサラリーマンが仕事帰りに一杯という雰囲気ではなく、洗練された大人が通う落ち着いた感じの佇まいに少し尻込みしてしまう。
「すみません、面接にきた者ですが…」
「おぉ?女の子!ささ、此方へ此方へ」
「?ど、どうも」
少し凝縮しながら店へと足を踏み入れれば、コック服を身に纏った派手なリーゼント頭の人にとびきりの笑顔で中へと通された。
案内された事務所の様な場所で待つ事数分。軽いノックと共にガチャリと入ってきた人物に勢いよく立ち上がりお辞儀をする。
「#name#です。よろしくお願いたします」
「あぁ。店長のマルコだよい、座ってくれい」
お店の雰囲気にぴったりな、大人の魅力を漂わせた店長と名乗る人物を少し憧れの眼差しで見つめた。
皺一つないスーツに形良く結ばれたネクタイ。無精髭も嫌味なく似合っている。上から下まで非の付け所がないような店長に思わずごくりと生唾を飲み込んだ。
「ククッ、じろじろ見すぎだよい」
「あ!すみません」
「じゃぁ始めるかねい」
「よろしくお願いします」
それから仕事内容や志望動機といった面接らしい説明や質問が終わり、履歴書を片手に深くソファーに座り直した店長は小さく唸りながら真っ直ぐ私を見つめてきた。
「ちょっとここに立ってくれるかい?」
「は、はい!」
その言葉にビシッと背筋を伸ばし従えば、爪先からじわじわと頭に向かって品定めする様に視線が配られる。
「よし。合格だい」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます」
「いつから来れるかい?」
「いつからでも大丈夫です」
「ん、なら明日から来い。じゃぁ早速制服の採寸しようかねい。少し腕上げろい」
「はい!こう…ですか?」
「おう」
「っ!?ちょっと!何で胸揉むんですか!?」
「あ?採寸してんだろい。文句あんのかい?」
「っ!い、いえ、ありません」
「うん。いい返事だよい」
採用の言葉に舞い上がったのも束の間、明らかに胸を揉みしだいている店長に抵抗を見せるも鋭い眼光に身体が一回り縮こまる。
至極真面目な顔付きで胸を揉み続けている店長を困惑と怪訝な表情で見つめながら、この先が不安で不安で仕方なかったが運良く決まった初仕事。これに耐え凌いでこそ自立への第一歩だと言い聞かせ、私はされるがままに胸を揉まれ続けたのだ。
「おぉ…いい乳だよい」
「ぇ…今なんて?」
「あ゙?」
「ひっ!何でもありません」
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