短編or番外編 | ナノ


純愛の果てに V




あれから毎日の様にある電話。
嬉しい反面、複雑な想いが込み上げる。

出なければいい話しなのだが、そうもいかない自分に腹が立つ。
そんな日々を送りながらも、着々と彼女との隙間は埋められてゆき、同時にオレの心も募っていった。


『…いや、それは…』

『あ、ごめん。迷惑だった?気にしないで』

そして今日も彼女との会話中、唐突に告げられた飯の誘い。
電話ならまだしもと、オレなりの予防線を張っていたのだが、外で二人きりで会うなんて以ての外だ。
しかし、彼女の悲しそうな声色を聞いてしまっては、断る訳にもいかず…

『あー、いいよい。いつだい?』

『えっ?いいの?いつでもいいよ、マルコくんに合わせる』

『じゃぁ…』

そうしてオレは、予防線を意図も簡単に超えてしまい、それでもまた新たな予防線を張る事で自分を納得させ、後日彼女と食事の約束をしてしまったのだ。


そして当日。
電話越しではない生の彼女との会話に、オレの心中は凄まじい葛藤が繰り広げられていた。
想いは募るばかりだ。なんとも言えないこの想いに心が真っ二つに折れてしまいそうだった。


『おいしかったね! また、行こ?』

『あぁ…』

『…なんかごめんなさい』

『あ?何がだい?』

『だって…なんだか無理してるみたい』

『っ…そんな事ないよい』

あからさまに楽しんではいけないと、食事に行っておきながらなんだが、オレなりの兄弟への気遣いを見透かされ彼女に謝罪の気持ちが生まれた。

彼女は何も悪くない。だが、一つ気付いた事があった。今までの経験上、間違いなく彼女はオレに好意をもっている。
それだけは避けたい現実だ。オレが想うより遥かにまずい状況になる。

『あー、送っていくよい』

『…うん』

オレの張りすぎた予防線に引っかかった彼女は、とても萎れた表情のまま助手席に乗り込んだ。
何度も言うが、彼女は何も悪くない。
せめて、サッチの野郎が告白でもしてくれればまだいいのだが、未だ影から見守るを鉄則としてやがる。
と言っても、彼女と奴のキューピットにもなれないオレは一体何がしたいのだろうか。


送る車内で彼女は一言も話さなかった。ただ俯き、何かに耐えているようなその姿を見ながらも、オレは気の利いた台詞も言えず車を走らせるだけだ。

そうして彼女のマンションに着き、別れの挨拶をしようとした刹那、勢いよく顔を上げた彼女はオレの腕を掴み、まるで泣き出しそうな顔でこう告げたのだ。


『私…マルコくんの事が好き』

『っ…』

あぁ、やはり。
大方想像していたオレは、特に驚く事もなくその言葉を聞く事ができた。

だが…その想いに応えてやる事は出来ない。
オレだって好きだ。この想いを伝える事が出来るならばどんなに楽だろう。
しかし兄弟と彼女を天秤に掛けても、結果は分かりきっている。

『#name#…すまねぇ』

『っ…』

彼女の息を呑む音がやけに響いた。ほんとに今にも泣き出しそうな彼女を抱き締めて想いを伝えたい。
だが出来ないんだよい。だから忘れてくれ。オレは…お前より兄弟が大事だ。


『…ぁ、うん。ごめん』

『…』

そう消え入りそうな声で口にした彼女は、静かにドアに手を掛け車から降りていった。
そんな後姿を見つめながら、オレはやるせない想いをハンドルにぶつける。

『クソっ…』

オレは悲劇のヒロインかい。こんな純粋に好きになれる相手なんてそうそういるもんじゃない。
しかも相思相愛だ。もやもやと苛々が止めどなく押し寄せてくる。

自分で決めた事だ。後悔なんてするなと何度も言い聞かせオレは車を走らせた。

これでいいんだ。

まるで暗示のように何度もそう唱えながら、家路に着いた。
それから当たり前だが彼女から連絡が来る筈もなく、たまに校舎で会うのだが、まるでオレを避けるかのような振舞に溜め息ばかり出た。

そして未だに影から見守っている兄弟に心底うんざりしながらも、オレは溜め息交じりの日々を送っていたのだ。


そんな生活を続けて暫く経ったある日、オレはこの日こそ兄弟を憎いと想った事はない。

『あー、オレのハニーが新たに現れたんだ!見てくれよ!あの子!!』

『…あ?もういっぺん言ってみろい!?』

『え?なに怒ってんの? だから、新たなハニーが』

『#name#は!?あいつの事はもう諦めたのかい!?』

『あ、あぁ。諦めたって言うか、何て言うの?純愛なファン?みたいな』

『あ?ファン…だと?』

『ぇ…すごい怖いんですけど、あの、だからファンです。いや、ファンだった?』

『死ぬほど惚れてたんじゃねぇのかよい!?』

『いや、惚れてるんじゃなくて…アイドルみたいな感じのファンなんだってば』

『…………死ね。今すぐに』

『うぎゃーーーーーーー!!』


なんて事だい、てっきり惚れまくっているのだと勘違いしていた。
彼女の話題は極力避けていたので、奴の本心を聞いた事がなかった事に酷く後悔した。

奴の言う【純愛】ってやつは、どうやらオレの想っていたのとは随分かけ離れていたようだ。

そんな事実を知ったオレは、紛らわしいサッチを思い切り蹴飛ばした後、彼女を探すべく校内を走り回った。

漸く見つけ出す事が出来た彼女は、友達とベンチに座り雑談中だ。
息を切らしながらも彼女に駆け寄ったオレは、目を見開き驚きを隠せない彼女の手を掴み引き寄せる。

『ぇ…あ、あの!?マルコくん何!?』

『#name#。好きだ』

『えっ!?どうしたの、いきなり…』

『好きなんだよい!』

『っ! ぇ…わっ!!』

いきなりの告白に戸惑いを隠せない彼女を他所に、募りに募った想いが加担して、オレは彼女を強引に抱き締めた。

『く、くるしいよ…ねぇ!!』

『ちょっと黙れよい』

『なっ!?痛っ、腕!腕痛いんだって!!』

『あ?腕?』

『そっ!腕痛いよ…』

痛いと煩い彼女を少し緩めた腕で伺えば、困った様な照れている様な、そんな感情が入り交じった表情でオレを見上げていた。

『悪ぃ…』

『ん。いやいや、ちょっと放してもらっていいかな?皆見てるよ…』

『見たい奴には見せればいいだろい』

『っ!? 嫌だよ!恥ずかしい。それに…好きって、いきなり』

『あぁ、オレは#name#の事が好きなんだよい』

『っ…! あ、あの時振ったくせに…』

『あれは…後で話すよい』

『あれからかなり時間経ってるけど?私に恋人が居るとか思わないの?』

『はっ、そんなの関係ないねぃ、奪うまでだい』

『ご、傲慢!!』

『あぁ、なんとでも言えよい』

『狡い!酷い!人でなし!』

『ん、わかったわかった』

『っ!!わ、私がもう好きじゃないって言ったら?』

『あ?それはないねい』

『な、何?その余裕…』

『その顔見れば、#name#の気持ちは筒抜けだよい。まだ好きだろ?』

『っっー!!』

『ククッ、図星だねい』


そんな終始真っ赤な顔の彼女にこれまでの経緯を説明したオレは、少し潤んだ瞳の彼女に再度告白をし、オレの純愛は幕を切ったのだった。

【純愛】オレにとってのそれは、心の底から相手を愛する事。オレはそう思っている。






『ぇ…!?オレの元純愛…』

『あぁ、今からはオレの純愛だよい』

『っっ!あ、初めてまして』

『は、は、は、初めまして』

『噛みすぎだろい…』

『ねぇ…純愛ってなに?』

『……あだ名だよい』







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