短編or番外編 | ナノ
純愛の果てに U
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そして翌日、当然彼女から連絡がある訳で、この事を奴に話しておかなければ後々厄介な事になるとオレは昨日の出来事を伝えた。
『はっっっ!?う、羨まし過ぎるぜ!!何だよっクソー』
『まぁ…そう言うなよい。あ、名前聞いたよい。』
『名前!?な、なんて言うんだ!?』
『#name#』
『#name#ちゃんかぁー。あー、#name#ちゃん』
『…ったく』
そんな恋焦がれる兄弟を若干妬ましく思いながらも、食堂に向かう途中でばったり出会ってしまった彼女。
『あっ!マルコくん!!』
『はっ!!お、おいマルコ!こっちに来るぜ…どうしよう』
『どうしようって…金返しに来ただけだろい』
『お前っ!彼女から金取るなよ!!』
『あー煩いねい、来たよい』
『はぅっ!!』
『? いい所で会ったね!あ、マルコくん、昨日は本当にありがとう! 後これ、朝焼いてきたの。アップルパイ』
『…あぁ、ありがとよい』
『お口に合ったらいいんだけど…』
『あ、あぁ…大丈夫だ』
『ほんと?良かった。じゃぁ、またね!』
『…』
笑顔で立ち去る彼女に、オレは苦笑いで返してしまった。なにせオレの後ろに隠れるように伺っているサッチが鬱陶しくてたまらない。
『おぃ…お前は一体何なんだよい!!』
『…マルコ、それ何だよ…』
『あ?礼だろ礼』
『#name#ちゃんの手作りか…手作り…』
『あーもうほんとに鬱陶しいねい、ほら、やるよい』
『い、いいのか!?』
『ああ。オレは甘いもんがキライなんだよい』
『マルコ…お前ってほんといい奴!!』
本心を言えば食いたかった。彼女の手作り菓子だ。だがやはり、オレはどう転んでも女より家族の方が大事だ。
家族を裏切ってまで突き通したい恋心なんて有り得ない。ましてやこんなに惚れている奴を裏切れる筈がないのだ。
その夜、風呂も入り後は寝るだけという状態のまま、ソファーに腰掛け読みかけの本を捲っていると、テーブルに置きっぱなしにしてあった携帯が震えだす。
手を伸ばしディスプレイを覗くとそこに映し出されているのは、もう掛かってくる事はないだろうと思いながらも登録してしまった彼女の名前。
一気に心拍数が上がる中、僅かに震える指先で通話ボタンを押した。
『はい』
『あ、#name#です。今大丈夫ですか?』
受話器越しに聞える声は、心地よくオレの耳に響き渡り、いつの間にか指の震えは止まっていた。
『あぁ、大丈夫だよい』
『ふふ、良かった。今何してました?』
『…何も』
一体何の用なのだろうか。電話の意図が掴めず少し素っ気無い受け答えをしてしまった。
それでも声を弾ませ世間話を始める彼女に、適当に相槌を返しながらもオレの頬は緩んでいく。
それから気付けば、あっという間に小一時間程話していた。そこで知らなかった彼女の素性が少しづつ明るみになる。
大学の近くで一人暮らしをしている事。地元は県外だという事。好きな食べ物、好きな映画や本の事。お菓子作りは趣味でよく作る事。そして…恋人はいない事。
話の流れから当然オレの事も色々話した。正直彼女とのお喋りは予想以上に楽しかった。
そんな少し浮かれ気味だったオレは、彼女との電話を切った後、ふと夢物語から覚めた様に何とも言えない罪悪感と、虚無感に襲われる。
彼女とこれ以上関わり合ってはいけないと。得るものなんて何もない。
あるのは兄弟からの非難と憎悪。
そんな取り返しのつかない状態になる前に、オレは再び固く、とても固く想いに鍵を掛ける。
今ならまだ間に合う。
その時のオレはそう思っていたのだった。
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