短編or番外編 | ナノ


純愛の果てに T




純愛。それは純粋な愛情、ひたむきな愛情。そう、辞書には書いてある。

だが、人それぞれ違ってもいいだろい?全て同じ思考の奴なんて誓っていない。


初めて彼女に逢ったのは、大学入学を数日後に控えたコンビニの帰り道。

吹く風がとても気持ちよく無意識に足が向いた海岸で見かけた彼女は、一人佇み、その姿はまるで一枚の写真の様に溶け込んでいて、そしてなにより、眩しいくらいに綺麗だった。

その時に声を掛けずに帰った事をオレは酷く後悔した。もう一度彼女に逢いたい。そんな淡い想いを抱きながら、幾度かあの場所へ足を運んだが、彼女に逢える事はなかった。


そんな心のもやもやを抱えたまま大学へ通うようになったオレは、幸いにも彼女と再び再会する事になる。


『なぁ、マルコ。一目惚れって…ほんとにあるんだな』

『…お前の口から聞くと、吐き気がするよい』

『あ?オレだって人並みの恋愛感情はあるぜ!』

『あ、そうかい』

『チッ。お前には分からねぇだろうな。純愛って言葉が』

『何故だか…苛つくねぃ』


純愛?オレにだってあるよい。あの日出逢った名前も知らない彼女だ。
見返りも欲もなにも求めない。ただ純粋に心が惹かれたのだ。この気持ちは間違いなく純愛だろうよい。

『はぁ…胸が苦しいぜ』

『はぁ…』

『あん?何でマルコまで溜め息なんか付いてんだよ?』

『あ?お前のがうつったんだよい』

『けっ!うつるかよ!ぁ…』

『あ?何だい急に』

『あの子…あの子だよ!オレの愛しのハニー!!』

『ハニーって……っ!!』

奴に促され目をやった先には、あろう事かオレが逢いたくて仕方なかった彼女が居た。

『あぁーーー行っちまった』

『……』

『見ただろ!?はちゃめちゃ可愛いだろ!?』

『…あぁ、そうだねい』

彼女をベタ褒めするサッチに、虚ろげな眼差しで相槌をした。
大事な兄弟の想い人と知った以上、オレはこの淡い想いを消し去らなければならない。
そうだ。オレの純愛は今ここで、終わったのだ。


その日を境に、彼女への気持ちを無理矢理消し去ったオレは、未だ何も接触を試みず、名さえも知らず、ストーカーの様に付き纏うサッチに溜め息を吐きながら奴を見守っていた。

『ったく、お前いくつだよい!?好きなら伝えて来いよい!!』

『お、お前…無茶言うなよ。純愛だぜ?純愛!』

『意味がわかんねぇよい』

『いいんだ。影からそっと見守る。これぞ純愛!!』

『…』

こいつ純愛の意味を履き違えてねぇか?お前のは純愛ってよりストーカーだよい。
そんな少しずれている兄弟を横目に、消し去った想いがちらりと顔を見せだしたオレは、これ以上こいつに付き合っていると完全に想いが漏れてしまうと感じ、ストーカーの付き人を辞める事を決めた。

『付き合ってらんねぇよい』

『あっ!待って!一人にしないで!!』



それから暫く経ったある日、運命の悪戯なのかオレは偶然彼女に遭遇してしまう事になる。

『っ…!!』

『あれー?おかしいな…』


なにやら困った顔をして、コンビニの前で立ち往生している彼女。
だが、話し掛ける訳にはいかない。極力彼女との接触は避けたい。
そんな後ろ髪を引かれながらも、オレは彼女に背を向け歩き出した。


『……チッ』

少し歩いた所でどうにも気になって仕方がなかったオレは、ダメだと警戒音が鳴り響く中、気持ちを抑えられず彼女に歩み寄ってしまった。

『どうしたんだい?』

『ぇ…あ、はい! 財布が…なくって』

『財布?落としたのかい?』

『ぇっと、分かりません…。』

財布がないとうな垂れる彼女に、オレはつい、手を差し伸べてしまう。

『金がないと困るだろい?やるよい』

『えッ!?あ、いいえ!大丈夫ですよ。お家に帰ったらあるので』

『また買いに来るんだろい?二度手間になるじゃねぇか』

『いいんです!自業自得ですから』

『いいから!ほらっ』

『いや…あっ!じゃぁ、連絡先教えてもらえますか?』

『いや、返さなくていいよい』

『だ、だめですよ!あの、同じ大学ですよね?確か…マルコくん!!』

『っ…! あぁ…』

『ふふ。あ、私#name#って言います』

そんな押し問答をしながらも予想以上に強引だった彼女に連絡先を聞き出され、後日返すと言う彼女と別れた。

しかし驚いた。彼女がオレの事を知っていたからだ。話した事も、ましてや顔を合わせた事さえないというのに。

『#name#…か…』

彼女と別れた帰り道。やっと知る事が出来た彼女の名前を呟きながら、叶えてはいけない、想ってはいけないこの淡い恋心に薄く笑いが出た。


『全く…オレはついてないねい』

未だ煩く鳴り響く警戒音を少し煩わしく思いながらも、理性とは裏腹に高鳴る気持ちは抑えられず、この気持ちの行く末を案じているオレがいた。







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