短編or番外編 | ナノ
涙が枯れた頃 T
![](//static.nanos.jp/upload/j/jyuira/mtr/0/0/20110920213509.gif)
![](//static.nanos.jp/upload/j/jyuira/mtr/0/0/20110920090722.gif)
私が勤めだして早五年。有りとあらゆる場面を見てきたが、今回は特例中の別物だ。
規模もでかければ、来賓の数も半端なかった。
創業始まって以来の大物顧客に社内総出で取り掛かる事になる。
そんな事で、人手不足を補う為に本社からわざわざ借り出されたのが、私だ。
そして、式の流れを遺族に説明する担当に抜擢された私は、今盛大に頭を抱えている。
「うぅぅ…親父ーーーー」
そう。私の仕事は葬儀屋さん。そして、今回の喪主を務めるというこの男。
恐らく長男なのだろう。ご遺体にしがみ付いて離れようとしない。しかも号泣だ。
「あ、あの。お葬儀の流れを説明させてもらってもよろしいでしょうか?」
「うぉぉーーー親父ーーー」
だめだ。完全に周りが見えていない。
気持ちは分かる。気持ちは。しかし、あなたは喪主なんですよ!喪主の役割おわかりでしょうか?悲しむのもいいですが、しっかりと見送るのも大事な事なんですよ!!
と、声を大にして言いたい処だが、目の前の彼はどうも魂が抜けてしまっている。
こんな調子では喪主は務まらないのではないかと、新たな親族を探す事にした。
会場内を一通り見回し再び溜息。多過ぎる。初めに提出してもらった書類に目を通すが…家族が多過ぎるのだ。
聞けば、今回お亡くなりになられたエドワード・ニューゲートと言う人物は、身寄りのない子供を片っ端から養子に迎えているという、なんとも寛大な心の持ち主だったようだ。
喪主を務めるのは、長男マルコと記されているが、彼があの調子だ。では次男は誰だと探すも…さっぱり分からない。
そうして立ち往生していると、あの号泣長男に慰めに入っている人物が目に入った。
あの人に聞けば解決策が見つかるのではないかと、歩み寄る。
「あの、親族の方でいらっしゃいますか?」
「おう。式場の人か?」
「はい。今回式の流れを担当いたします#name#と申します。」
「あぁ、よろしく頼みます」
「あの・・・それでお話が…」
「ああ…わかった。マルコ、少し落ち着けよ…」
そんな連れの言葉に酷く同感する。いい加減落ち着いてくれ。私は切に思った。
そうして彼を捕まえ、喪主の方があれでは…と代わりをお願いしてみることにしたのだ。
「あー、そうだな…で、喪主ってなんだ?」
まさかの返しに唖然とした。これは…予想外。
「えーっとですね、今回のお葬儀の主宰者になられる方ですね」
「ふーん。何すればいいんだ?」
「故人の方に代わって、来賓して頂いた方々に代表としてご挨拶などをして頂きます」
「あぁ、成る程な。じゃぁやっぱりマルコがしないとな」
「いや、ですからあのご様子では…」
「ちょっと待ってろ。おい!マルコ!!」
そう言って、恐らくご兄弟だろうその人は、泣き崩れるあの男を引き摺ってきた。
「おい、しっかりしろよ。この人の話、ちゃんと聞いとけよ」
じゃ。と捨て台詞を吐き、私は彼と二人きりにされてしまう。
「グズ…うぅ…」
「あ、あの…大丈夫ですか?」
「グズズ…あぁ」
「では、式の流れをご説明しますね」
そうして通常の3倍は掛かったであろう説明をし終え、何とか、あの泣きじゃくる長男も喪主を勤め、二日に渡る豪勢な式は無事終える事ができた。
それから二日振り自宅に帰った私は、いつもの何倍も疲れ果てドサリとベットにダイブする。
疲れ…た…
幸い明日は休みだ。最後の力を振り絞り言葉を言い終えた私は、吸い込まれる様に眠りに堕ちた。
夢の中へと片足を突っ込んだ状態で、ふと過った彼の泣き顔。
とても大切な人だったのだろう。彼は今も泣いているのだろうか?
そんな事を考えながら私は意識を手放したのだった。
← →
![](//static.nanos.jp/upload/j/jyuira/mtr/0/0/20110916090920.gif)