私の中の優先順位 | ナノ

07 鴨葱再び



「#name#、指名だ」

「ん、誰?」

「…昨日お前がやらかした客だ。よかったな」

「えっ!?うそっ?も、文句言いに来たのかな?」

「いや、両手いっぱい菓子屋の袋ぶら下げてたからな、謝りにきたんじゃねぇか?」

「…ほ、ほんと?」

「チャンスじゃねぇか、ほら、早く行ってこい」

「う、うん…」

昨夜あんなことがあった手前もう二度と店には現れないと思っていたにも関わらず、開店そうそう来店したマルコさんに疑問と動揺が沸き上がる。

ローが言っていた通り手土産を持ってきたという事は怒鳴り込みに来た訳ではないだろう。

しかし何故わざわざ謝りに?余程のお人好しなのか、それとも私の事を相当気に入ってくれたのか――
どちらにせよローの言う通り、一度は失いかけた上客を再び掴む絶好のチャンスだという事だ。

「失礼します…」

「っ、#name#っ、昨日は…」

「…、マルコさん、昨夜は本当にすみませんでした」

「あ、謝るのはこっちだよい、すまねぇ#name#。ほんとにすま」

「いやいや#name#ちゃん!実はよ、俺の所為なんだ。いや、それがよ――」

顔を合わせるなり精一杯の作り顔で謝罪を口にすれば、予想通りマルコさんは悲痛な表情を纏い頭を下げてきた。

そしてマルコさんの言葉を遮り、昨夜の真相を語り出すリーゼントに昨日の変貌振りが彼の入れ知恵だった事を知らされるも、私はそれを全て鵜呑みにする事はない。

私がローの言い付け通り清純でおしとやかを装うように、客もまた大抵の人が嘘偽りで身を固めてくる。

金持ちを装って実は借金まみれだったり、誠実だ本気だのと言葉巧みに口説いてきてもただの汚い下心だったりするのが現状だ。

しかし私はそれを悪いとは思わない。寧ろ正しいとさえ思う。こういう店に飲みに来る客は、日常では味わえない優越感などを高いお金を出し買いに来ているようなものだ。

そして今、目の前でリーゼントが語っているマルコさんの人間性がたとえ偽りだろうと、彼等が客である以上信じる振りをしてあげなければならない。

「そう…だったんですか。でも…、どんな理由があろうとお客様に手をあげた私が悪いです」

「い、いいんだよい、悪いのは俺だい。で…その、許してくれるのかい?」

「フフ、はい。マルコさん…優しいんですね」

「#name#…ありがとよい。あ、これ、甘いもんは好きかい?」

「わぁ!大好きです!でも…すごい量ですね」

「いや、何がいいかわからなくてよい、全種類買ってきたんだが…」

「フフ、ケーキバイキングみたいで素敵です」

「よーし!仲直りの祝いにパァーッとシャンパンでも空けるか?」

「サッチさん素敵!私シャンパン大好きです」

「す、好きなのかい?ならどんどん頼めよい」

「いいんですか!?マルコさん大好き」

「お、おぉ」

そうしておいし過ぎる発言をするリーゼントを褒め讃えながら、再び上客を掴むことが出来た私はここぞとばかりに一番高いシャンパンを頼み、うっとりと此方を見つめるマルコさんを同じように見つめ返しながらも心の中では高笑いをあげ売り上げの計算を立てていたのだった。

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