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05 忘れられない日



#name#が立ち去る姿を呆然と見つめながら、どういう事だと俺の頭は大混乱を巻き起こしていた。

そうして彼女が乗ったタクシーが視界から消え去ると同時に我に返りサッチの言葉を思い出す。


「マールコちゃん、なになに?気に入っちゃったの?ん?」

「…なんだよい」

「そんなマルちゃんにお兄ちゃんアドバイスしてあげる!いいか、よく聞けよ?#name#ちゃんを落とすにはまず金と強引さだ」

「近ぇよい、…金?」

「そうだ。ホテルとか行ったらよ、ウェイターやボーイなんかにチップやるのは礼儀だよな?」

「あぁ…」

「それと一緒だ。ホステスには飯一つ誘うにも金を胸元なんかにさりげな〜く差し込んでだな」

「胸元に…」

「おうよ!後は男らしい強引さ!#name#ちゃんみたいなタイプは押しに弱いと見た」

「押しに…かい?」

「そうだ。今みてぇな態度じゃ嫌われちゃうぜ?ま、段取りは任せとけ!」

「あ、あぁ。頼むよい」

#name#が席を立った後直ぐ様サッチのやつに言われた言葉に、こういう場所に慣れていない俺はそうなのかと頷きを返した。

初めは金で釣るような真似は彼女に対して失礼ではないかと頭を過ったが、言う通り強引さを見せ付け胸元に札を忍ばせれば、困惑顔の中にも嬉しそうに微笑んだ#name#にサッチの言葉が嘘ではなかったのだと安堵する。

それからアフターとやらに繰り出した。電撃的ともいえるこの出逢いを形にする為には限られた店の中では不十分だというサッチの計らいだ。

確かにまだ彼女と共に居たいという気持ちも強かったが、金を出して強引に誘えば誰にでも着いていくのかと思うと、ぎしりと胸が締め付けられる。

彼女は仕事だと割り切って誘いに乗ってくれているのか、それとも俺を一人の男として見てくれているのか、今はまだ全く掴めない彼女の心に不安と期待が入り交じりながらも、肩を引き寄せ髪を撫でればほのかに頬を染める#name#に歯止めなど効く筈もなく想いは募るばかりだった。

そうしてもう既に俺の心を見事なまでに射いた彼女が申し訳なさそうに帰ると言い出した。
そんな可愛らしい顔で言われれば益々帰したくないというのが男心で、勿論このまま帰す気なんて更々ない俺は強引に彼女を引き留める。

暫く押し問答を繰り広げている内に礼儀である金を渡していなかった事に気付き、どうせなら#name#の希望額をやろうと問い掛ければ今まで奥ゆかしい態度だった彼女が急変し気付けば頬を打たれていた。

打たれた頬など痛くも痒くもなかったが、笑える程心は八つ裂きにされたかのように痛みを訴え始める。

繁華街の一角に一人取り残されたままサッチの言っていた事は全てはったりだったのかと、鵜呑みにした自分を自責しながらも今日は忘れられない日になりそうだと自嘲な笑みがでた。

そうして俺は今までの人生の中で最も最短で恋に堕ち、初めて女にぶたれ、そして最も最短で失恋を経験したのだった。

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