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03 揺さぶられた心
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不運な事に俺の部下がしでかした不手際をサッチの野郎に尻拭いしてもらう羽目になり、その見返りに今日一日俺の奢りで飲み明かそうと連れてこられた場所はネオン煌めく繁華街だった。
サッチの一押しだと言う店の門を潜ったものの、正直こういう飲み屋は好きではない。せめてもの救いは風俗店じゃなかったことだ。
着飾った女どもは確かに眼の毒にはならねぇだろう。しかし作られた笑みと偽りだらけの会話をつまみに酒を飲んでも何も楽しくもない。相槌を打つのも疲れちまう。
普段なら近寄らないそんな場所だが、今日は謂わば罰ゲームの様なものだ。サッチが楽しけりゃそれでいいかと腹をくくり通されたVIPルームと書かれた部屋へと足を踏み入れる。
「お前はいつもこんな所で羽を伸ばしてるのかい?」
「おうよ!綺麗な姉ちゃんに囲まれて飲む酒は最高だ!」
「そうかい。そりゃしこたま飲んでけよい」
「お前は…相変わらず淡白な男だな?女もいねえくせによ…まさか!?ホ」
「このボトルで頭カチ割るよい」
「冗談だよ冗談…ふぅ。お!きたきたお姉ちゃん!」
「…はぁ」
そんな鼻の下を伸ばしっぱなしのサッチに深い溜息が漏れた。
別に興味がない訳ではない。仕事が忙しいのも関係あるが、心を奪われるような異性に巡り逢っていないだけだ。しかもこんな金を払ってまで女と接点を持ちたいとも思わない。
そうして目の前でニタニタと女の肩を抱き楽しんでいるサッチに苦笑いを漏らしたと同時に俺の隣にも女が現れた。
いらっしゃいませと貼り付けた笑顔と共に差し出された名刺に目も暮れず、俺はいいからとサッチの方へと促す。
そんな俺に少し表情を曇らせながらもめけずにチマチマと質問攻めをしてくる女に、初めは適当に相槌を打っていた俺も暫くすると無言になっていく。
鬱陶しい。率直にそう感じた。血液型や好きな食べ物なんか聞いてどうするんだい?話を広げようとしているのは分かるが正直まるで乗る気がしなかった。
そして暫くするとまた違う女が俺の隣に座ってきた。しかもまた同じような出だしから同じような質問をしてきやがる。
なんだい?こいつらはそう言うマニュアルか何かがあるのかい?
もう勘弁してくれと、げんなりと疲れ果てた俺は金だけ置いて帰ってもいいかと口を開こうとした瞬間、柔らかな声色が鼓膜を駆け抜け久しく感じていなかった感情が身体を突き抜けた。
そうして反射的に振り返った先には、まるで天使の様に俺に微笑む女が立っている。
そのあまりの眩しさに一瞬クラリと目眩を覚えたのも束の間、隣に座っていいかと尋ねる彼女に思わず声が上ずった。
先程までの煩わしい気持ちはどこへやら、ドクドクと波打つ鼓動に浮いた腰が再びソファーへと根をはるように沈んでいく。
明らかに動揺する俺にすかさずサッチが割り込んでき指名とやらを促してきた。
そうして生涯初の指名をした俺は、極上に可愛らしい顔でお礼を言う#name#に悩殺されてしまう。
まさに心臓を一突きにされるとはこの事なのかと、いい歳をした大の男が自嘲すらままならない胸中に頭を抱えていた。
それから#name#がにこやかに話し掛けてくれるが、正直まともに目を合わすことも出来ずコントロールの効かない感情に苛立ちさえ覚える始末だ。
そんな中、突如現れたボーイに呼ばれた#name#が席を外すと断りを入れてきた。
指名をすればずっと隣に居てくれるものと思っていた俺は、思わず豆鉄砲を喰らったような顔で彼女を見つめてしまった。
どういう事だ?こういう店のシステムはどうなってるんだと、分からない事だらけでざわつき困惑する俺に、ニヤリと腹立つ笑みを浮かべたサッチが意味ありげに耳打ちをしてくる。
そんなサッチの提案に初心者マークの俺は成る程と素直に頷きを返した。
「マルコ、これでばっちりだ」
「そ、そうかい、ありがとよい」
さすが遊び尽くしてるだけはあるサッチに初めて尊敬の眼差しを向けながら、早く#name#が帰ってこないかと、俺は遠足前の子供のように逸る気持ちを抑えられずにいた。