私の中の優先順位 | ナノ

02 面倒臭い彼



「マルコさんは…このお店は初めて来られたんですか?」

「ん?あぁ、そうだよい。あまり来ないからねい、こういう店には」

「そうなんですね。お酒はお好きなんですか?」

「あ―まぁ、好きな方かねい」

「ふふ、いつもブランデーを?」

「いや、特に決まっちゃいないが、あ、飲み物、好きなもん頼めよい」

在り来たりな話を含ませながらじわりじわりと探りを入れていく。
訊いてはいたがやはり初来店、しかも他の店にも通ってはなさそうだ。

ならば確実に掴みたい。さてどうすればこの葱鴨を上手く手懐ける事ができるのか、そんな事を考えながら促されたドリンクを選ぶ素振りを見せる。

実を言えば既に心の中では決まっていたりする。安くもなく高すぎもせず、彼等の飲んでいるボトルより少し安いくらいのワイン。

本音を言えばワインは好きじゃない。しかし売り上げ的には格好の飲み物だったりする。初めはこの位が妥当だろうと、計算し尽くした頭で可愛くおねだりをしてみた。

「私、ワインが好きなんですけど…頂いていいですか?」

「へぇ、ワインが好きなのかい?遠慮なく頼めよい」

「#name#ちゃん!今日はマルコの奢りだから高っけぇやつ頼んじまえよ!」

「サッチ…。あ、値段に気にせず好きなもん頼んでいいからねい?」

「え、はい。ありがとうございます」

ここで謙虚を装っても何も得をしない。ナイスリーゼントと心中ガッツポーズを取りながら、決めていたワインよりワンランク上のオーダーをした。

そうして再び話を振りながら改めて分析を開始する。

見た感じでは女に不自由はしてなさそうだ。オマケに金持ちとくれば間違いなくモテるだろう。

普段飲み屋に行かないといっていたが、言い寄ってくる女の子で適当に遊んでいるのだろうか?彼くらいの地位の人間ならモデルや著名人なんかとも簡単にお近づきになれるに違いない。それとも奥さんか彼女一筋…指輪はしてないな。

しかし挙動不審過ぎやしないだろうか?話にはちゃんと受け答えしてくれてるが、姿勢は前を向いたまま、会話のリードは全て私がしている。それに目線だって少し照れた様に直ぐに反らされてしまう。

照れる様な歳でもあるまいしと扱いが面倒臭そうな彼に内心舌打ちをしながら、まぁ、とち狂ったにせよ指名してくれたという事は嫌われてはいない筈だと考える。

ならば余程のシャイな性格なのか。初めの予測通り慣れてないだけなのか。
どちらにせよお金さえ落としてくれれば問題はないと、にこやかな笑みを浮かべながらまるでリラックスしていないマルコさんを見詰めた。

「#name#さん、お願いします」

「あ、はい。マルコさん、直ぐ戻ってきますね」

「っ?あ、あぁ」

「#name#ちゃんマルコ寂しがるから早く帰ってきてね〜」

「ふふ、はい」

呼びに来たボーイに促され席を立てば、少し驚いた表情を見せたマルコさんに思わず吹き出しそうになる。

そんな何もシステムを知らなそうな様子に、本当に飲み屋遊びをしていないんだなと思いながら部屋を後にすれば店長が手招きをしているのが目に入った。

「やるじゃねぇか#name#」

「ラッキーでしょ?でもローの予想は外れてたよ。あれは興味がないんじゃなくて遊び慣れしてない感じ」

「へぇ…。お偉いさんにしては珍しいな、堅物系か?」

「ん?どうだろ、誠実そうだけど…ちょっと面倒臭い匂いがするな」

「ククッ、ほら、しっかり仕事してこい。もう一本くらいワイン空けろよ」

「…ワインあんまり好きじゃないんだけどな。んじゃ、行ってきまーす」

「あぁ、…#name#。枕営業はするなよ?」

「はい?そんなのした事ないでしょ、失礼な!」

そんな店長兼友人のローから浴びせられたおふざけに睨みを利かせながら、少し毛色の違ったマルコさんをどう取り込むか頭を捻らせる。

取り敢えず連絡先だけでも交換しておくかと、次の来店に繋がる策を練り再びマルコさん達の元に戻ってきた私は、予想打にしていなかった彼の豹変振りに胸中凄まじく動揺してしまう事になった。

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