私の中の優先順位 | ナノ
01 金に勝るものなし
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「#name#、新規の上客だぞ、しっかりものにしてこいよ」
「えー?どんな人?タバコ吸いたいんだけど」
「ダメだ。ほら、あの金払いのいいリーゼントの連れ」
「あぁ…あの人の。部下とかじゃなくて?」
「あぁ、身形が違ぇ。ありゃお偉いさんだな。そしてお前で三人目な、前の二人は撃沈して帰ってきたぞ」
「え、癖が悪い感じの人?」
「いや、こういう場所の女に興味ないんだろ、ま、頑張れ」
「なにそれ、行きたくないな…。すぐ抜いてよ」
そう店長に告げられ向かったVIPルーム。少し前から月に一度か二度店に現れるそのリーゼントと呼ばれる客は、特定の女の子に肩入れする訳ではなく、毎回適当に指名をするタイプの謂わば店の客。
確かに羽振りが良く下心に比例するようにお金を落としていく。そんな彼の連れという事は同じ部類か、もしくはそれ以上か、しかし一癖ありそうな前触れに少し気が沈むが、世の中金でしょと格付けしている私はどんな客でも偽りの笑顔でやり過ごす自信があった。
「いらっしゃいませ、お邪魔します」
「おー!#name#ちゃんじゃない!あ、マルコの横に座ってやってよ?こいつしけた面しやがってよぉ」
「はい。お隣お邪魔してもよろしいですか?」
「っ、あ、あぁ」
マルコと呼ばれる本日のターゲット。私の担当ではないがまだ誰の客でもない彼は店長の計らいで適当に女の子を宛がわれる。
予定通り隣を陣取ることに成功し、見た感じ無愛想な素振りもみせないそのターゲットを素早く観察すれば、品の良いスーツに綺麗に磨かれた靴、腕にはばっちり高級時計がはめられていた。
まぁパッと見た感じでは金持ちといった感じが伺える。
そんな是非とも顧客に欲しい要素を散りばめた彼の隣りに行儀よく腰掛け、作られた営業スマイルを惜しみ無く振り撒きながら名刺を差し出した。
「いらっしゃいませ。#name#です」
「あ、あー、マルコだよい」
「わ、名刺くださるんですか?ありがとうございます。マルコさん…ですね」
「お、おう」
「なんだマルコ!?名刺なんてさっきの子にあげなかったくせによ、気にいっちゃったの?なら指名しないとどっか行っちゃうぜ?」
「な、煩ぇよいサッチ…、あーなんだ?指名したがいいのかい?」
「え、あ、して頂けるのならとても嬉しいです」
「そうかい。じゃぁ指名するよい」
「本当ですか!ありがとうございます」
呆気なく指名をもらい内心ニヤリとしながらも、店長の言ってたような興味無さ気と言うよりも女遊び慣れしてない雰囲気に、きっと前に座った子達で何かしら免疫がつき、丁度私で場馴れでもしたんだろうと考えた。
そんなラッキーに恵まれながら手元の名刺を再びチラリと覗けばそこには取締の文字。
こう言う客は嵌まらせればかなりの売り上げになるだろうと、更に上がる口角を必死で堪えこのチャンスをいかにものにするか、私は高ぶる気持ちを秘めながら疑う事なく澄んだ瞳で此方に目線を向けているマルコさんに微笑みを返した。