私の中の優先順位 | ナノ
23 確かな想い
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「#name#ただい…な、な、な、なんだいその格好は!?」
「おかえり、早かったね。見たら分かるでしょ?浴衣よ浴衣」
「浴衣…か、可愛いよい!可愛い過ぎだいっ!!」
「……怖いよ」
店のイベントの為一人浴衣の着付けをしていた最中、いつもより随分と早く帰宅したマルコさんはその姿を見るや否や目を輝かせ絶賛の声を部屋中に響かせた。
そんなかなり大袈裟過ぎる賛美の声に、若干引き気味な態度で接しながらも忙しく手を動かし浴衣を纏っていけば、しっかりと此方に視線を固定しているマルコさんがじわじわと距離を縮めてくる。
「似合ってるよい…#name#」
「はいはい、ありがと。邪魔だから離れてくれる?」
「なっ!?………まだ時間たっぷりあるだろい?」
「え?時間?……げ、もうこんな時間じゃん、美容室行かなくちゃ」
「美容室?あぁ…髪整えてもらうのかい?」
「っしょ。よし、出来た。そう、予約してるから急がなきゃ」
「なら車で送るよい。どの位掛かるんだい?待ってるよい」
「は?待たなくていいよ、そのまま行くから。今日同伴の約束あるの」
「…………は?」
「なに?」
「え……仕事行く気かい?しかも誰と同伴…いやいや、今日は俺と花火大会に行く約束したじゃねぇかい!?」
「はぁ?したっけ?」
「ぐッ…………した…よい」
噛み合わない会話に着地点が見つかったと思えば、覚えのない約束を口にされ当然ながら首を傾げた。
花火大会?そんな約束をした覚えは全くない。
しかしデタラメをむやみに口にする様な彼ではないし、それにこの驚きとうな垂れ様。
間違いなく交わしてしまったんだろうその記憶にない約束に、少しばかりの罪悪感が生まれてしまった。
「あ……ごめん。覚えてなかった」
「ぅ…し、仕方ない、よい。はぁ………」
「……えっと、あー、終わったら即行帰ってくるから、ね?」
「即行…かい?即行……ならよいっ、店の下まで迎えにいくよい!」
「あ、うん、じゃぁお願い」
「よし来た!さ、美容室行くんだろい?」
「う、うん」
単純過ぎる訳ではないだろうが、言葉の裏に隠しておいた彼の為にすぐ帰るというニュアンスを汲みとったのだろう彼は、その言葉を訊いた途端すぐ様目を輝かせ笑顔を取り戻した。
そんな様子を目に映した途端、最近やけに感じる胸の奥がキュッと疼く様な感覚。
着実に惹かれていく自分に戸惑いと困惑が生まれながら、一方で、マルコさんのような類い稀なる存在にこの先巡り逢うチャンスはないかもしれないとも頭を過る。
そんな想いを頭の中で描いていてもやはり、傾いた気持ちを素直に晒け出すにはどうしても踏み込む事が出来ない自分がいて、そんな私の心中には整理できない想いが幾つも連なり渦巻いている。
それでも時折、こんな私に振り回されながらも変わらぬ眼差しをくれる彼にどうしようもなく胸をくすぐられる時があって、そんな時は少しだけ素直な心が顔を出した。
そして何より、嫌いではない事だけはしっかりと、認識している…つもりでいた。
「ねぇ、行ってきますのキスしてあげる」
「なっ!?#name#から…キスを…かい!?」
「しなくていいならいいよ。じゃぁね」
「し、し、し、し、してくれよい、んーー」
「吃り過ぎ…………でもってその顔がなんかいや。やっぱやめた。じゃぁ後でね」
「なっ!?おいっ!#name#っ!?」