私の中の優先順位 | ナノ
22 認めたくない心
絶対的な愛情を向けてくれる存在に確かな居心地の良さを感じながら、それでも『あなたの隣は居心地が良い』なんて言葉は到底言えそうにもない意地の悪い私は、相も変わらず傲慢な態度を貫き通していた。
そんな心境を知ってか知らぬか、マルコさんは常に優しく変わらぬ態度で接してくれる。
その好意に甘えっぱなしな日常を送りながら、特に不便もストレスもなく新たな生活が肌に馴染みだしてきた今日この頃、現在私は猛烈な視線を背中に感じたままリビングのソファーに座り雑誌を捲っていた。
「……」
「……」
「…………何?」
「っ!!ぁ…ぃゃ…ょぃ」
「……ぷっ」
刺さるような視線に少し鬱陶しそうな口調と共に振り返れば、片手に耳掻き、もう一方の手にはティッシュの箱を持ったマルコさんがもじもじと身を捩らせ佇んでいた。
その様子から手に取るように分かるのは、耳掻きをして欲しいが頼む勇気が無い、もしくは声を掛けるタイミングが分からない、のどちらかだろう。
「ぷっ、おかしっ。何?耳掻きして欲しいの?」
「ぅ…おぅ。いい…かい?」
「…、いいよ、ほら」
「#name#!あ、ありがとよいっ」
そんな予想外な私の振り返りの所為で、出鼻を挫かれた彼の驚いた表情がおかしくて堪えもせず笑いを噴き出した。
そうしてまるで尻尾でも見えそうな程喜び露に距離を縮めてきた彼は、すりすりと猫のように頬を膝に擦り付けご機嫌な様子が厭でも伝わってくる。
耳掻きを他人に頼むなんて甘えたい願望以外なにものでもないが、そんな以前なら即答で拒否していただろうこんな彼の要望も、今では苦にもならず受け入れる辺り、私もだんだんとマルコさんへ心が傾き出しているのだろうか?
そんな事を考え頭上で僅かに頬を緩ませているとは知る由もない彼は、正に極楽とでも言うように寛ぎながら空いた手で私の足を撫でている。
その様子を見下ろしながら、そんなに嬉しいものなのかと理解しがたい彼の心境に首を捻りつつふとローの言葉が頭に過った。
こんな耳掻き一つ頼むのに躊躇するような男が、一体どんな素性を隠し持っているのか。
あれから特に何を言われる事もなく、そしてマルコさんに至っても変わった様子は見当たらない。
到底ローの顔をしかめるような危ない秘密は秘めていなさそうな彼の耳をほじりながら、私はローの思い違いではないかとそう確信めいた思考が生まれていた。
「はい、次反対ね」
「ん?お、おう…」
「眠たそうだね。ってか耳掻きしても何にも取れないんだけど、もう止めていい?」
「ん?んん…」
「ちょっと寝るならベット行けば?」
「ヤダよい…このまま…寝たいよい」
「は?ヤダよ、足痺れる」
「……痺れたらどかしていいよい」
「わ、ちょっと…、もぅ…」
正直他人の耳掻きなんて面白くもなんともない。もういいだろうとはっきり伝えた拒否の言葉に、頷く事なくマルコさんは身体を反転させお腹に蹲るように密着し瞼を閉じてしまった。
そんな彼に盛大に迷惑感を込めた溜息をお見舞いしながらも、気付いたことが一つ。
そういえば彼の我が日に日に強くなっている。
私優先な所は以前と変わらないのだが、なにか、気付けば自然な流れで要望を組み込まれ、それに従っている自分がいた。
それは共に時間を共有していくに連れての慣れなのか、それとも私の心の変化に彼が気付き調子に乗っているのかーー
そんな仮説を頭に浮かべながら、彼に惹かれていく自分を悟られる事に何故か抵抗のある私は、はっきりとした理由も分からぬまま無性に顔が赤らむのを感じていた。
「もうっ!起きてよ!」
「ん……やだよい」
「トイレいきたいの!ど、どいてっ!!」
「うおっ!?」