私の中の優先順位 | ナノ
21 癒しの場所
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頭の隅に僅かな疑問を抱えたまま、あまりやる気のでない心とかなりダルイ身体で仕事へと向かった。
いつもとなんら変わらない店内で着替えをしながら、自分の身だけに起こった変化に少しの違和感を覚える。
今日から帰る場所が違う
ただそれだけの事なのに、不安や期待がごちゃ混ぜに絡み合いぐらぐらと不安定な足場に立つような心境を作り上げていた。
「ほんとに来たな」
「え?あぁ…言ったじゃん辞めないって」
「あぁ…確かに言ってたな」
「…なに?だいたい昼間から…隠してる事あるなら全部吐きなさいよ」
「別に。ほら、朝礼するぞ」
「……ムカつく」
顔を合わせるなり、昼間同様意味有り気な口調で言葉を繋ぐローに苛立ちが湧いてくる。
なんなんだという眼差しをこれ見よがしに投げ掛けるが、全く動じないローは飄々と私の背を押し朝礼を始めてしまった。
そんなどうにも煮え切らない心境では当然の様に浮かない顔になる訳で、朝礼が終わると同時に当て付けの様に裏に引き隠り苛立ちを煙に混ぜて吐き出した。
「おい、全くやる気ねぇな」
「……だってローが隠すから」
「隠してる訳じゃねぇよ。時期に分かる事だろ」
「だから何が?」
「……さぁ?」
「あー、ほんとムカつく。帰っていい?」
「残念。早速ダーリンのお出ましだ」
「は?マルコさん来たの?」
「あぁ。彼氏になったんだろ?遠慮なく高い酒飲んで来いよ」
「……なによ、それ」
当然の如く後に続いたローに苛立ちを倍増され爆発寸前な私は、更に追い討ちを掛けるように告げられた知らせに怒りの矛先がくるりと進路を変えた。
腹ただしい含み笑いを浮かべ追い出すように背中を押すローを一睨みし、向かう標的に溜まっていた感情が溢れ出すのを感じる。
「…、何で来たの?終わったら連絡するって言ったのに」
「お、あ、いや…よい。家に居ても…暇だろい?」
「タイミング悪過ぎ。もう、早退したかったのに」
「なっ!?あ、じゃぁこれから一緒に」
「早退してどっか飲みに行きたかったの!一人で!!」
「ひ、一人で…って…」
「まぁまぁ#name#ちゃん、そんな顔しなさんなって。ほら、座って座って」
「だってサッチさん…」
「#name#一人で何処に行くつもりだったんだい?」
「煩いな、いいでしょ別に。鬱陶しいのよ」
「ぇ、っ、#name#…」
「あー…#name#ちゃんご機嫌斜めだなぁ。アレか?生理か?」
「サッチ!#name#にセクハラ発言するんじゃねぇよい」
「へいへい…」
「……、はぁ…」
遠慮無しにぶつけた苛立ちに当然だがマルコさんは訳が分からず動揺していた。
それをフォローする気にもならないくらい未だ治まらない心境は、ホステスあるまじき態度でグラスに酒を注ぎ込み仏頂面のまま溜息まで吐いて出た。
「#name#、あ、あのよい、悪かった、いきなり来て…よい」
「…………、うん」
「早退するんだろい?俺等はもう帰ったがいいかい?」
「……、帰らなくていい。から…ラストまで居て。他の席に行きたくないし」
「お、おう。あ、じゃぁ帰りは#name#の好きなもんでも食って…い、一緒に、帰ろうかねい」
「……何照れてんの?」
「い、やぁ、て、照れてねぇよい。ほら、何飲む?疲れてんだろい?ゆっくりしとけよい」
「っ…、ありがとう」
素直に口に出た感謝の言葉に、胸のモヤモヤが少しずつ減少していく。
正直、勝手な行動を取ったマルコさんに苛つきはしたが、考えてみれば自分の事は棚に上げ理不尽な事ばかり突き付け彼を困らせているなと良心がざわついた。
そんな身勝手な振る舞いばかりする私に対して、嫌な顔一つせず無性の愛情を注いでくれてるであろうこの目の前の彼に、表にこそ出さないけれど、何か言葉に出来ない罪悪感と、そして胸が暖かくなる安心感が生まれてくるのを感じていた。