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20 彼の素性



「アホかお前は」

「アホじゃないし!ってかローに男関係までとやかく言われる筋合いない!」

「筋合いもなんもお前は商品なんだよ、俺には管理する義務がある」

「商品って…、でももう引っ越しちゃったし手遅れよ」

「引っ越し直せ」

「直せないよ、それにマルコさんと…付き合ってるし…さ」

「何で付き合った?別れろ」

「またそこから!?もう勘弁してよ…」


昨夜の内に業者に連絡し、翌日の午前中には全て完了してしまった今回の唐突過ぎる引っ越し。

そんな事の成り行きを避けては通れぬローへ報告に出向いた部屋で、ただ今終わりの見えない堂々巡りが繰り広げられていた。

寝起きの機嫌が悪い彼に言ったのが間違いだったのか、それとも何度聞いても理解出来ない内容なのか、複雑な顔をしたローは話が進むに連れ計ったように振り出しに戻してくる。

確かに後報告もいいとこだが、かなり急展開なこのマルコさんとの関係はローに報告する暇もなく今日まできてしまった。

店で出逢ったお客さん、つまりマルコさんとの事は店長であるローに報告する義務がある。
それは言われなくても暗黙の了解的に従ってきた事だったが、何故かマルコさんとの事はローに伝えるのを忘れていた。いや、意図的に伝えなかった。

その事情を説明しろと言われると上手く出来ないが、とにかく言ってしまった今でさえ後悔の嵐に襲われるほど、この事実は伏せておきたかった気持ちが強く残っている。

「はぁ…、ったくなんで客と。しかもあいつかよ」

「っ…、マルコさんだとなんか都合が悪いの?」

「…お前、あいつの素性知らねぇのか?」

「素性?素性って?え、なに?やばい人だったの?」

「#name#に害はないだろうが…、っ、ちっ、で?店辞めるのか?」

「え?辞めないよ」

「辞めないのか?」

「え?う、うん。何で?辞めたがいいの?」

「いや……わかった」

「え?なによ、何かやばいの?ねぇ、ロー!?」

意味有り気な言葉を投げ掛けておきながら、知らぬと言えば深い溜息と共に話を強引に逸らされてしまった。

その後はどんなに食い付いて問い掛けてもふいっとそっぽを向いたローが口を割る事はなく、私は渋々その場を後にしたのだ。


面倒な手続きも全てしてもらった手前、特にする事もなく新たな新居に戻り一息吐く。

逐一電話を掛けてくるマルコさんに問題ないと何度も同じ台詞を吐きながら、もう一度新居を見渡した。

取り敢えず空室だった部屋に荷物を押し込んだのはいいが、荷物といっても電化製品や家具などは何故かマルコさんの計らいで全て捨てられてしまっている。

確かに冷蔵庫や洗濯機などは二つも要らないだろう。それでも気に入っていた家具まで捨てられた事にたいしてさすがに異論を唱えたが、また買ってやると言いくるめられ首を捻りながらも従ってしまった。

と言う訳で持ち込んだ荷物は衣料品と細々とした雑貨や化粧品。

そうしてまるで旅行に来たかのような最低限の荷物で踏み入れた新居は、馴れ親しんだ家具が一つもない違和感有り有りの空間で少し居心地の悪さを感じてしまう。

「もしもし?」

「今どこだい?引っ越しは終わったかよい?」

「どこって…さっきも言ったじゃん、マルコさん家。全部終わったよ」

「そうかい。ククッ、俺ん家って…今日からは#name#の家でもあるだろい?」

「あ…うん、そだね」

「夜には帰るよい、引っ越し祝いに美味いもんでも食いに行こうかねい?」

「ぇ、あぁ…夜は仕事行くから居ないよ」

「は?し、仕事行くのかい?引っ越しで疲れてるだろい?」

「ん、でも昨日も休んじゃったし今日は休めないよ」

「っ、そ、そうかい。あ、じゃぁ同伴してやろうか?」

「ん、今日はいい。終わったら連絡するね」

「……、あぁ。気を付けてな」


本日何度目か分からぬ着信にうんざり感が漂う中、しょんぼり声の彼に極力優しい声色を装い電話を切った後、ふとローの言葉が蘇った。

マルコさんの素性?

素性とは一体何を指すのだろうか? 家族構成?仕事内容?それとも生い立ち?
そして私には害はないと言ったローの言葉が、何故か頭にこびりついて胸の奥底がざわりと騒ぎ出すのを感じていた。

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