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19 彼の本性



ころころと変わる自分の心に嫌気がさしながら、すぐ隣でご機嫌そうに座るマルコさんを横目に軽く溜息を吐く。

何故だか分からないが、マルコさんの捨てられた仔犬のような眼を向けられるとグラリと揺さぶられてしまう意思。

そしてゆらゆらと不安定過ぎるその意思は、再び彼の言葉によっておぼつかない足場に着地してしまった。

正直毎回これでいいのかと不安が止めどなく押し寄せてくるが、何故かマルコさんには今までの自分を覆す行動ばかりしてしまっている。

それでも、そんな重心のない自分に苛立つような気持ちは一切なくて、少し、居心地の良さを感じているのだからどうしようもない。

「はい?」

「ぇ…いや、だからよい…ここで一緒に…住んでくれねぇかい?」

「なんで?」

「ぅ…いや、あのーーー」

そんな自分でもよく分からない思考に耽っていると、なんの脈略もなしにそう口走る目の前の彼は、その意図を訊いた途端何故かもじもじと口ごもっている。

共に暮らす?
何故?

そんな考えしか持ち合わせない私の頭は疑問符しか浮かばない。

「あ、あれだい!仕事の都合でよい、時間帯が合わないだろい?だから…よい」

「だから?」

「ぅ…少しでも一緒の時間が…欲しい、んだい」

「あー、ね」

「せ、生活費はもちろん家賃も要らねぇしよい!だ、だから…」

「あ、あー…」

何故しどろもどろになる必要があるのか分からないが、必死な形相で取り繕ったような理由を突き付けてくるマルコさんに成る程と頷きを返しながら、私は共に暮らすメリットを思い浮かべていた。

返事を待つ彼の潤んだ瞳を感じながらまた胸がキュッと軋む。その眼は駄目だ。そんな眼を向けられると意思とは裏腹に厭でも口がイエスと言ってしまう。


「ん、そうだなぁ…」

「#name#、頼むよい」

「ん…、私家事なんかしないよ?料理も苦手だし…」

「あぁ!問題ないよい!飯はサッチがするし家事もホームヘルパーが来るからねい、#name#は何もしなくていいよい」

「え、ほんと?それいい」

「だ、だろい?じ、じゃぁ一緒に暮らしてくれるかい?」

「ん、いい…よ」

「ほんとかい!?はぁー、嬉しいよい#name#と暮らせるなんて…よい」

「っ…よ、よかったね」

「よかったよいっ!!じゃぁ早速引っ越ししようかねい、#name#」

申し出に了承した途端激しく喜びだしたマルコさんは、直ぐ様引っ越しの手筈を整えだした。

そんなに急ぐ事なのかと疑問に思いながら、また確たる意思を持たぬまま流され頷きを返してしまった自分に呆れた吐息が漏れた。

彼の事を好きだとまだ断言出来ない段階だというのに、一緒に暮らしたりして本当に大丈夫だろうか?


絶えることない不安を感じながら、それにしてもマルコさんは奥手に見えて実は強引だなと思った。

しかも餌の蒔き方が絶妙に上手い。そして相手の気分を損ねないギリギリのラインを上手く利用し逃げ場を無くしてから確実に頷かせる、そんな質の悪い、よく言えば賢い方法を使ってくる。

そんな彼の隠れざる一面を分析した所で、今まで自分が押しに弱いのかと思っていたが実はそうではないんじゃないかと頭を過る。

私の扱いを熟知していて、それを上手く利用し我を通し切る。まるで初めから彼の手のひらで踊らされているような疑惑が浮かんだ途端、背筋がヒヤリとした。

「なぁ#name#、…#name#?」

「ぇ、あ、な、なに?」

「ん?いや…何か問題でもあんのかい?一緒に…暮らす事に…よい」

「え?あぁ…そうじゃ…ないんだけどさ」

「さ、って…なんだい?言ってみろよい」

「あー…マルコさんってさ、すっごい頭良さそうだよね」

「ハハッ、なんだいいきなり」


そんな事を考えている最中不意に呼ばれた名前に思わず声が上擦ってしまった。
その様子にクスクスといつもの優しい笑みを漏らす彼を見詰めながら、先程まで無邪気だなと思っていたその笑顔が、何だか無性に嘘臭く、そして良い意味で少し怖いな、と感じた。

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