私の中の優先順位 | ナノ
13 向けられた純愛 1
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唇から伝わる甘い刺激に意識がふわりとなりかけながら、意外にも繊細で妖艶な口付けに身体の芯がじわじわと疼きだしていく。
そんな私を感じ取ったのか、交わされる口付けは徐々に激しく深いものになっていき、それでも抱き締める腕も、絡み付く舌も、まるで彼の想いを伝えるようにとても優しく愛しさが含まれていた。
「ん…、キス……上手」
「そうかい?愛がこもってるからだろい」
「…へぇ」
「ククッ、連れないねい」
ゆっくりと離れた唇に少しだけ名残惜しさを感じながら、久しくしていなかった蕩けるような口付けに酔しれる自分を誤魔化すように口を開けば、背中がむず痒くなる台詞をサラリと口にするマルコさんに思わず素っ気ない態度が飛び出してしまった。
「#name#…」
「ん、あ、ねぇ、ちょ、もうっ止めてよ!」
「…、ぇ?」
「顔中舐め回さないでよね、もう。それよりさ、お風呂入りたい」
「なっ、……風呂かい?風呂…よし、入ろうかねい」
「…え、何?その一緒に入ろうか的な言い方」
「洗い合いっこ…なんてしてみたいねい。洗い合いっこか…うん、いいねいそれ」
「……」
色気のない言葉を口にした事で急速に欲情を削がれてしまった私は、仕事帰りのベタついた体を急に不快に感じるようになり、どうせなら綺麗な身体でと先を促すマルコさんを押し退け口にした言葉は何故か違う方向に解釈をされ彼の一人言に掻き消されていく。
そんな突っ込み処満載の彼は至近距離で唖然とする私を気にも止めず、ニタニタと笑みを浮かべながらそろりと私を下ろしどこかへ消えていった。
その不可解な行動に首を傾げ呆れ顔のままその後を追えば、鼻唄混じりに浴槽にお湯を張りながら何やら入浴剤を選ぶ怪し気な姿が目に飛び込んでくる。
「マルコさん…楽しそう」
「ん?あぁ、#name#と風呂に入るなんて楽しいに決まってるだろい」
「…女の人とお風呂入るの好きなの?」
「んー?入った事ねぇよい」
「は?今まで入った事ないの?」
「あぁ。なぁ#name#、入浴剤っつうのは賞味期限はあるのかい?」
「……ないと思うよ」
そんな終始訝しげな私をまるで気にもせず、陽気な態度を崩さないマルコさんに溜息を一つ漏らしながら、今まで彼女なんかとお風呂には入らなかったのかと疑問を浮かべた頭で身に纏う衣類を剥ぎ取っていけば、浴槽をかき混ぜていた彼がクルリと振り返りその様子に目を見開いている。
「何?お風呂入るなら服脱ぐでしょ」
「お、おぅ。いやぁ、でもよい、恥じらいがまるでないねい…」
「なに?文句あるの?」
「ね、ねぇよい」
あからさまに目を背けるマルコさんを一睨みし、そそくさと浴室に足を踏み入れノズルを捻った。
恥じらい。
確かに言われてみれば…あまり感じられない。偽りの殻を脱ぎ捨てた後から、自分でも不思議なくらいマルコさんに対して羞恥心なるものが消えていくのを感じていた。
それは全て受け止めてやるという言葉を試しているのか、それとも私がもっと自分を知って欲しいと思っているのか、はたまた嫌われてもいいと感じているのか――
「マルコさん?入らないの?」
「お、おぅ。すぐ行くよい」
「もう、自分から入ろうって言ったくせに…」
「お、おぅ」
私とは真逆に羞恥心有り有りなマルコさんに先程から出っぱなしの溜息を吐き、一人そそくさと体や髪を洗い湯船へ浸かった。
念願の洗いっこが叶わなかったマルコさんは少ししょんぼりしながらも、やはり機嫌の良さは変わらず私の後を追うように浴槽に身を沈める。
「はぁ…。この家で湯船に浸かるのなんて久し振りだい」
「いつもシャワーなの?こんな素敵なお風呂なのに勿体ない」
「一人で湯に浸かっても虚しいだろい」
「…そぉ?ねぇ、マルコさん、ほんとに彼女とか…居ないの?」
「まだ言ってんのかい?俺は浮気出来るような器用な人間じゃねぇよい」
未だに怪しむ私に向かって、真剣過ぎる程真っ直ぐな瞳は信じざるおえない状況を突き付けてくる。
こんな条件の良い男が売れ残っているという事は、やはり彼自身に何か問題があるのだろうか――
そんな事を考えながら、意外と鍛え上げられた彼の胸に背を預けるように密着し、その安心感に長く連れ添った恋人のようだと感じる自分に自嘲的な笑みが漏れた。