私の中の優先順位 | ナノ
10 確かめたい心理
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「おい、その格好どうにかしろ」
「えー?うるさいな、いいじゃない家なんだから」
「…よくねぇよ。それより#name#、最近調子に乗ってねぇか?」
「…何が?」
「あの客だ。確かにかなりの上客だが客はあいつだけじゃないからな」
「…わかってるよ」
「いや、わかってねぇな」
仕事が終わりローにマッサージでもしてもらおうと出向いた部屋で、あまりにも気の抜けた身なりをしている私に向かって頭上から呆れ声が降り注ぐ。
確かに言われてみれば、ノーメイクで髪の毛はつむじ辺りで一つにくくり、部屋着のスェットに着古したパーカー。間違いなく客には見せられない格好だ。
しかし室内で寛いでいる時まで着飾る必要はないだろうと不貞腐れながら口を尖らせれば、何か気に食わなかったのだろう、いつの間にかローお説教が始まってしまった。
「あのペースは切れるのも早ぇぞ。他の客にもきちんと営業しとけよ」
「わかってるよ!だいたい切れるの早いって何?」
「そうだろ、普通の客が半年かけて使う額と来店数を、あの客はまだ一月も経ってねぇのに余裕で越えてやがる」
「…だから?」
「その分見切りも早ぇって事だ」
「…見切り?」
「あぁ。お前が堕ちねぇって気付くのも早ぇし、堕ちたら堕ちたではい、さよならだ」
「…そ、そんな事ないよ、マルコさんはいい人だし」
「はぁ…やっぱりわかってねぇな、ああいう金持ちは堕とすまでが楽しいんだよ」
「っ、でも…」
「#name#が自ら股を開くまでの過程が娯楽なんだ、金持ちにありがちだろ」
「……」
淡々と続くローの説教じみた言葉を聞きながら、その内容に思わず言葉を失った。ローの言う通りそういう客がいる事も知っている。
確かにマルコさんに出逢ってからほぼ毎日、連絡は勿論のこと少しの時間でさえ店に来てくれている。
その度に多額の飲み代を払い、同伴の時は何かしら物を買ってくれていた。
何の見返りもなしにここまでしてくれる人は確かに居ないだろう。ではやはり、ローの言う通り私を堕とすまでの過程を楽しんでいるのだろうか?
それとも見た目通りの純粋な気持ちでよくしてくれているのか――
しかし例え本気で惚れてくれてるとしても、偽りの私しか知らないマルコさんの愛は薄っぺらいものだろう。
そんなどちらを取っても虚し過ぎるホステスの性を胸に抱えながら、翌日も当たり前のように店へ赴いたマルコさんに探るような眼差しを向けてみた。
「ん?どうした?」
「え、いや…、ね、マルコさん」
「ん?」
「明日…日曜日ですけど…お仕事お休みですか?」
「ん、あぁ…会社は休みだねい。まぁ、休もうと思えば休めるよい」
「っ、じゃぁ…今日…泊まりに行っても、いいですか?」
「は?」
「あ、ダメです…よね、すみません、冗談です」
「いやいやいや、ダメなんかじゃねぇよい、いや、あ、でも何でいきなり、よい」
「…っ、いろいろ…お話とか…したいな、って」
「っっ!?と、とか…かい」
「はい」
マルコさんだってバカじゃない。女が男の家に泊まりに行きたいと言う意味はわかるだろう。
そんな今までの私とは思えぬ発言に、案の定あたふたと動揺しまくるマルコさんを見ながら私は賭けにでる事にしたのだ。
抱かれた後切れても構わない。それにマルコさんはどんな風に私を抱くのか少し興味があったのと、これだけ貢がせたお礼みたいな感情も多少はある。
それに何より確めたい想いが大半を占めていた。今までの客とは全く違うタイプのマルコさんの本心を探るには、この方法が一番手っ取り早い筈だ。
未だに口を覆い動揺しまくっているマルコさんの手をそっと包み込み、ローにバレたら怒られる所じゃなさそうだなと思いながらも腹を括った私は、もう一度泊まりに行ってもいいかと甘えるように言葉を投げ掛けた。