社会人編 番外編 | ナノ

#マルコの誤算



毎日穴が開くほど見つめても見飽きることはなく、可愛くて愛しくてもういっそのこと肌身離さず自分の体にくくり付けておこうかと本気で考え出した今日この頃。

「んじゃ、行ってくるよい」

「ちょちょっと!マルコさん!?」

「ん?なんだい#name#」

「なんだいじゃないですよ、何で会社にチビマルを連れていこうとしてるんですか?」

「ぅ…だってよい…、寂しいじゃねぇかい」

「ダメですよ、会社になんて、絶対ダメです!」

「わかったよい、……チビマル、暫しのお別れだい…ぅ、待っててくれよい」

「マルコさん…遅刻しますよ」

「ぅ、わかってるよい」

愛する我が子と片時も離れたくない俺は、毎日のようにチビマルを連れ出そうと試みるがその度にことごとく失敗に終わっていた。

しかし俺はめげねぇよい。今や育児をするのは母親だけじゃねぇ。イクメンっつう言葉が世の中に普及しているように、育児をする父親が大勢いる筈だ。俺は…イクメンと呼ばれてぇ。


「行ってきます、よい」

「いってらっしゃ…なんですかそのお腹?」

「ぅぅ…太ったんだい」

「もう…我が子を誘拐みたいな事しないでくださいよ…」

「っ…だってよい…」

「それに会社に連れてってどうするんですか?チビマルが寝る場所もないし遊ぶスペースだって、それに――――」

そうして今日も失敗に終わった俺は一人寂しく会社へと向かう。
今から約半日程チビマルに会えないと思うと胸が張り裂けそうだ。しかし#name#の言う通り会社に連れてっても…そうか!その手があったよい!


「おいっ!エース。ここぶち抜いてチビマルの部屋作るよい」

「は?朝っぱらから何言ってんだよ?」

「#name#がよい、チビマルの部屋がないから会社に連れてっちゃダメだってんだい」

「いや、その前にいろいろダメだろ」

「だからよい!作りゃいい訳だろい?作りゃよい」

「いやいや、マルコ」

「うーん、この辺にガラス張りで中が見えるようにするだろい…それからーー」

「聞いちゃいねぇ…」

よし。我ながらナイス提案だい。チビマルの部屋を作れば#name#だって文句言えねえだろい。後は親父にリフォームの許可を取れば完璧だい。

「アホんだらぁ!会社を何だと思ってやがる!」

「え…だってよい親父!会社に来る機会だってあるだろい?そん時によい」

「駄目だ。会社は遊び場じゃねぇ」

「でもよい!会社に連れてきたら親父だってチビマルに会えるんだよい!?会いてえだろい!?」

「う…そりゃ…」

「親父!頼むよい…」

「ぅ…」

そうして親父の説得に成功した俺は即座に業者を呼びつけた。最低四日は掛かるという所を二日で何とかしろと圧力をかけ、隣に部屋を構えていたジョズを無理矢理別の部屋に移動させと大忙しだ。

そんな皆には迷惑極まりない作業の騒音がまるで心地よい音楽のように聞こえる中、これでチビマルと過ごせる時間が大幅に増えると心はどうしようもなく弾んでいた。


「よし、#name#。今日からチビマルを会社に連れてくからねい」

「もぅマルコさん…まだそんな事言ってるんですか?だいたい」

「作ったよい」

「え?」

「チビマルの部屋を作ったんだい。これで文句ねぇだろい?」

「はい?もうマルコさんったら…」

「つう訳で行ってくるよい」

「ちょっと待ってください!それって私の都合無視ですか!?」

「ん?#name#はゆっくりしとけよい。いつも大変だろい」

「いやいやいやいや、チビマルのおっぱいどうするんですか?」

「……ぁ」

「それに今日検診の日ですし、その後は育児教室行くんですよ、なので今日はダメです」

「なっ…」

「じゃ、マルコさん、行ってらっしゃい」

「っ!!!!!!」

なんてこったい…。すっかりチビマルの飯の事忘れてたよい。
じゃぁなんだい?結局はダメじゃねぇかい。おれ一人ではチビマルの面倒は看れないってことかい…なんてこったい!


「あれ?マルコ今日チビマル連れてくるんじゃなかったのか?」

「…よい」

「来ねえのか?まじかよ…」

「…なんだよい?」

「いや…親父今日のスケジュール全部空けて楽しみにしてっぞ?」

「なっ!?」

「プレゼントも買ってたなぁ…」

「っっっ!!?」

「来ねえのか…落ち込むだろうな」

「!!!!!!」

そうして親父のしょんぼり顔を悲痛な面持ちで見つめ、結局大急ぎで作らせたチビマルの部屋は被害者一名を残して月に一、二度使うか使われないかという残念な結果に終わった。

「マルコ…そろそろ俺の部屋元に戻してくれないか…?」

「……嫌だよい」

「お、おれ、今資料室使ってるんだが…しかもすごく狭い」

「嫌ったら嫌だよい」

「そんな…」

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