鬼畜な彼の愛し方 <img src="//img.mobilerz.net/img/i/63879.gif" border=0 align=absmiddle /> | ナノ

妥協×決意



睡眠不足の体と抜群に相性の良いこの環境はあっという間に私を夢の世界へと連れ去り、深い眠りから引き摺り出す様にゆさゆさと体を揺さぶられる感覚に目を覚ませば、あからさまに不機嫌そうな顔に出迎えられた。

「ん…おはよ」

「……何してんだ?お前…」

「ん…あー、昨日のあれが…」

「……」

まだ足りない睡眠に頭がうまく回らず途切れ途切れに言葉を繋げば、それを拾い上げ解釈してくれるローに感動しながら身を起こす。

「ローは凄いね、頭がいい」

「当たり前だろ、それより…喧嘩ばっかりだな、お前ら」

「……だって、マルコ先輩が悪い」

「ククッ、そんなあいつに惚れたんだろ?」

「……」

呆れた笑いを含んだ問い掛けに背伸びをしながら考える。
好きか嫌いかで問われれば前者と答えるけれど、今の私はもう彼とは付き合っていく自信がない。

そんな一晩中悩み抜いた想いをローに伝えれば、やけに納得した様子の相槌が返ってきた。

「で?…別れるのか?」

「っ、…うん、あ、でも…」

「まぁ…お前が全て正しいとは言えねぇが、嫌なら仕方ないな」

「…うん」

「別れてくれるか…疑問だけどな」

「っ…大丈夫だよ、だって…」

だって、意図も簡単に私を切り捨てられる彼の事だ。きっと不満を訴えても聞く耳さえ持ってくれないだろう。

振られる…という行為にはプライドが許せず抵抗されるかも知れないけど、そんな彼のプライドに付き合っていてはこっちの身が持たない。

私はマルコ先輩の操り人形ではないんだと、もう傍に居るのが辛いと、そうわかってくれるまで伝えようと一波ありそうな難関に意気込みを入れた。

「私…別れる」

「そうか…で?その後は?」

「え?その後…?」

「俺の女にでもしてやろうか?」

「はっ?なにそれ…」

「ふん、お前と対等に付き合える奴なんて俺くらいだろ?」

「……、そんな事ないよ、私これでも結構もてわっ!」

「俺しかいないだろ、#name#」

「んっ…、……。」

背中に伝わる衝撃と予想外の言葉に戸惑いを見せれば、そうなんだと強い眼差しで口を塞がれた。

そう、なのかも知れない。この世で一番身近にいた他人。言葉に出さなくても気持ちが通じ合う安心感。そして何より、唇から注がれてくる無言の愛情。

ローに恋心を抱いた事はないけど、この絶大な安心感は気付かない内に恋を通り越し愛情まで達していたのかも知れない。

彼が今までどんな気持ちで私と接してきたか知らないが、きっと同じ気持ちなのではないかとそう思った。

辛い恋より、気楽な相手。

そんな妥協にも似た思いが脳内を侵食していく中、漸く解放された唇に深く息を吸い込みながら決意がどんどん固まっていく。

「よし。別れる」

「いきなり意気込むな」

「あ、ごめん」

「はぁ…色気が足りねぇな」

「別れるのに色気がいるの?」

「アホか」

態とらしく的外れな言葉を吐き、相変わらず呆れ面のローを置いて一人学校へと向う。

消しっぱなしの電源を入れればすぐに大量の未確認メールが映し出される。
そのメールに目を通さぬまま簡潔な言葉を打ち込み送信した。

そうして瞼に彼を映し出す。つい数時間前まで一番愛して、一番大切で、一番近くに感じられた彼が、二番目でも三番目でもなく誰よりも遠い存在に感じられた。

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