鬼畜な彼の愛し方
| ナノ
落差×居場所
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マルコ先輩の制止の声を振り払い逃げる様に部屋に駆け込めば、静まり返った空間に一気に虚しさが込み上げてくる。
全てを信じていた訳ではない。
心の片隅には確かに彼への疑心は残っていた。
それでも信じようと努力した気持ちが次々と崩れ落ちる中、彼と私の間に愛情の落差をひしひしと感じてしまう。
彼中心の生活を強いられ過ごしている内に、気付けばロー以外の友人と過ごす所か自分の時間さえ全くなくなっている事に気付く。
私の過去を受け入れず家族同然だと言い放ったローまでも認めてくれない。
それなのに私の存在など簡単に切り捨てられる程度だと裏付ける様に告げられた先程の言動。
今になって考えてみれば、あまりにも理不尽過ぎて涙よりも笑いが出てきそうだ。
この先想いが募れば募る程その落差に悩まされる日々が続き、そして二人の想いが肩を並べる日は永遠に訪れる事はないんだと、そう感じた。
そんな彼との不安な未来を考えている中、漸く机の上に置きっぱなしにしていた携帯の存在に気付く。
マナーモードに設定された四角い存在が急かすように着信を知らせていたが、予想の付く相手に何か苛立ちのような感情が沸き乱暴に電池パックを外してベットへと投げ付けた。
ピタリと止んだ煩わしい振動音と共に生まれた安堵の感情に、彼との関係に決定的な何かを見た気がしてチクリと胸が軋む。
それでも今は声さえ聞く気にはなれず、きっと今頃怒り狂っているだろうマルコ先輩の存在をきつく目を閉じ遮断した。
結局一睡もできぬまま朝を迎え彼がもう居ない事を確認した後、身支度を整え陽が登り始めたばかりの外へと飛び出した。
行き先は勿論…
「ロー?起きて」
「……」
「ねぇ…起きてよ」
「……」
寝起きのすこぶる悪い幼なじみを無理矢理叩き起こす。
傍迷惑な行動なのは百も承知だが、すっかり心の拠り所化したこの存在に私はすぐに頼ってしまう。
「もぉ…起きて!」
「…ちっ。…なんだ?」
「やっと起きた…あのね、ちょっ」
「寝ろ…」
「え?……はぁ」
やけにすぐ起きたかと思えば案の定、私をベットに引き摺り込みまた寝息を立て出したローに、何だか安心するような、気が抜けるような、そんな居心地の良さを感じ、この胸の中こそが私の居場所なんじゃないかとふと思った。
私の今までを白紙に戻し、新たな色で塗り潰そうとするマルコ先輩。
そんな彼と、この先手を取りうまくやっていける自信は限りなくゼロに近いんじゃないかと、そう思い始めていた。