鬼畜な彼の愛し方
| ナノ
理不尽×決別
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予期せぬ彼の登場に、私は一瞬で真っ白になった頭と刺さりそうな程鋭い眼差しにみるみる体が硬直していく。
「#name#…どこに行くんだい?」
「っ、ぇ…あの」
「いい子に寝とけっつったろい」
「ぁの…」
一歩一歩と冷たい眼差しのまま距離を縮めてくるマルコ先輩に嫌な汗がジワリと伝う。
それでも何か言わなくてはと、飛んでしまった思考を引き摺り出し彼の機嫌を損ねない返答を思案していると、ふと手元の存在に目がいった。
「#name#、昨日も電話切った後出掛けたろい?」
「っ!?ぇ…何で」
「どういうつもりだい?」
「あの…あ、こ、これを」
「…あ?」
昨夜の素行を口にする彼に驚きながら、おずおずと手に持ったお皿を突き出し幼なじみの家に渡しに行くのだと伝えれば、少し呆気に取られた表情を見せたが直ぐに怪訝な目付きに変った彼に再び体が強張った。
「こんな時間にかい?」
「はい…忘れてて」
「…昨日は?」
「昨日も…忘れてて…でもなんで」
だいぶ穏やかになった雰囲気に安堵しながらもつらつらと飛び出す嘘にまた罪悪感が募る中、昨日の行動まで知っている彼に疑問を投げ掛ければ、昨夜私が家を出た瞬間を偶然兄弟が見ていたと。
そんな事実に苛立ちの理由を納得しながらも、このまま突っ立っている訳にはいかずどうしたものかとチラリと彼を伺う。
「ぁ…取り敢えず、渡してきますね」
「…俺も行くよい」
「っ?あ、あのすぐ終わるので、その」
「あ?俺が行っちゃぁ都合が悪いのかい?」
「っ、ぃ、いえ」
そうして仕方なく仏頂面の彼を引き連れローの家に向かえば、案の定チャイムなど押しても出てこないローに深い溜息が出る。
それでもマルコ先輩が居る手前、いつものようにずかずかと上がり込む訳にもいかず、ならばこのまま帰るのも敢えて都合がいいかと思った矢先、何ともタイミング悪くゆっくりと扉が開き出す。
「……」
「ぁ、ごめんねこんな時間に、これお母さんから」
「……あぁ悪いな」
「……ぁ、えっと、じ」
「お前が#name#の幼なじみかい?」
「っ!?マルコ先輩、い、行きましょう、じゃぁね」
「……」
何かを察したように無表情のまま見据えるローとは裏腹に、何故か今にも掴み掛かりそうな彼の腕を咄嗟に引っ張りまるで逃げるように立ち去れば、不満だらけの顔と共に苛立ちを含む言葉が降ってくる。
「#name#、アイツとはもう会うなよい」
「え?ちょっと何でですか!?」
「…とにかくダメだい」
「な、無理ですよ!幼なじみですよ!?家族同然の付き合」
「ダメだって言ってんだろいっ!」
「っ…」
避難の言葉を威圧的な態度で遮られ、あまりにも理不尽過ぎる要望に素直に従う事などできる筈もなく、私はひたすら悲痛な眼差しを彼に向ける。
ローとこの先関わるなと言うマルコ先輩。
幼い頃から培ってきた関係は人に強要されようが断ち切れるものではない。
ピリピリと肌を指す視線を受けながら、そんな無理な申し出に困惑する私に追い討ちを掛ける言葉が降り注いだ。
「俺とアイツと、どっちが大事なんだい!?」
「……ぇ」
「いいから、俺の言う事聞けよい。アイツとはもう会うな」
「…先輩は?じゃぁ、マルコ先輩は私と…家族や友達と…どっちが大事ですか?」
「あ?んなもん家族達に決まってんだろい」
「なっ…」
「もう会うなよい、返事は?」
「…って」
「あ?」
「私だってマルコ先輩より幼なじみの方が大事ですよ!」
「は?あ、おいっ」
何の戸惑いもなく私を切り捨てた素直と言うより無神経な返答に、一気に頭に血が上ってしまい反発する様に偽りの言葉を投げ家へと駆け込んだ。
家族や友達を天秤に掛けるなんて間違っているとわかっていたが、言わずにはいられなかった。
相手を想う心があれば、せめて対等、偽りでも恋人を選ぶのが優しさなんじゃないかと思う。
それをああも簡単に格付けしたマルコ先輩に、戸惑いよりも彼の中に居る私と言う存在がどれ程の物なのかを思い知らされた気がして、再び彼の気持ちに疑心が立ち込めたのだった。