鬼畜な彼の愛し方
| ナノ
不満×不信感
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想いが通じ合ってから数日、玉砕覚悟で告げた告白がまさかこんな展開になるなんてと、その後は天にも昇る気持ちかと思いきや、正直な所、私はかなりのフラストレーションを抱えていた。
翌日から当然のように私のクラスに現れたマルコ先輩は、呼び付けるなり何食わぬ顔で私を引き連れ校内を練り歩く。
その際、腕を組めと命令口調で言われるのだが、その様子はどこから見ても私から強引に組んでいるとしかとれない状態だ。
そんな事をしていれば注目の的で、付き合い始めた翌日から『仕方なくマルコ先輩が付き合ってあげている』だの、『何か弱味でも握られたのか』だのと、嫉視や好奇な目線と共に一方的に私が付きまとっていると言う噂が瞬く間に広まった。
しかしそんな言われようには思い当たる節がある。
それは付き合い出した翌日、マルコ先輩の家に行った時の事だ。
「おっ#name#ちゃん、いらっしゃい」
「サッチ先輩…お邪魔してます」
「なになに?付き合いだしたの?」
「あ、あの」
「そうだよい。#name#がねい…ククッ、俺の事が好きで好きで堪らないんだとよい」
「ぇ…」
「へぇ…それはそれは」
こんなやり取りを思い出し内心溜息がでた。
間違った事は…言っていないのだが、やはりこの言い方を聞けば私だけが想いを寄せているように感じてしまうだろう。
しかし、二人きりの時はそれはそれは甘えん坊と名乗れる程ベッタリな彼を是非皆に見て欲しいと思ってしまう。
「#name#…ん、」
「…はい、どうぞ」
「#name#に食わしてもらうと一段とうめぇよい」
「そ…そうですか…」
食事の際も甘えた声で催促され、口元が汚れれば舐めとれと言われ、やれ膝枕しろだのなんだのと彼の甘え振りには嬉しい反面驚きを隠せないでいた。
そんな少し強引な彼の要求も愛されている証だと幸せを感じられるのだが、どうしても引っ掛かる事がある。
「ククッ…そんなに俺の事が好きかい?」
「…好きですよ」
「そうかいそうかい。いい子だよい」
「マルコ先輩…は?」
「ん?」
「私の事好きですか?」
「あぁ」
「…あぁじゃなくて…好きだって言ってくださいよ」
「あ?んなもん態度見てりゃわかるだろい」
「っ…」
これだ。実を言うとまだ一度も"好き"という言葉を彼から聞いていない。
催促しても少し呆れた様な眼差しで今のように流される。
確かにこの態度を見ていれば好意を寄せてくれている事は伺えるが、やはり女として、彼女としては愛の言葉を欲しいと思うのは欲張りなのだろうか。
そうしてもう一つ。
厳し過ぎるとも言える束縛。日を追う毎に項目の増えていく決まり事にも頭を抱えてしまう。
『じゃぁ…おやすみなさい』
『あぁ。起きたらメールしろよい』
『はい』
『ほら、いつものは?』
『…大好きです、おやすみなさい』
『よし。おやすみ』
寝る前は必ず自宅の電話からワンコール。そうしてすぐに折り返し掛かってくる電話に、彼からは言ってくれない愛の言葉を添え電話を切らなければならないという不思議な決まり。
まず自宅の電話からワンコールという時点で明らかに信用されてない感が伺えるが、それを意義できる勇気も度胸もない私はただ静かに従う事しか出来ない。
そうして今日もその使命を終え、一人深い溜息を吐きながら少し肌寒いベランダで想い耽る。
マルコ先輩は一体何を考えているのだろうか?
本当に、私の事を想ってくれているのだろうか?
じわりと湧いた不信感と切なさに胸がチクリと痛んだ所で、斜め向かいの家からチカチカと存在を示す様に輝く光りに目を向ければ、月明かりに照らされたローの姿が浮かび上がってきたのだった。