鬼畜な彼の愛し方
| ナノ
誤解×奇跡
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折れそうな程きつく抱き締めてくるマルコ先輩に、少し理性を取り戻した私は嬉しい反面、戸惑いが生まれる。
酔っているからか?私だと認識していないのか?
いや、それはないかと思った所で、微かに鼻を啜る音に思わず顔を上げた。
すると、途端に胸板に押し付けるように頭を押さえ付けられる。
「ぐっ…マルコ…先輩?」
「……」
「泣いて…るんです…か?」
「っ……んな訳ねぇだろい」
「……」
すかさず否定した彼に言葉を紡んだ。でもあの音は確かに涙と共に溢れる鼻を啜る音だったと、彼が涙する理由が全く思い当たらない私はただ疑問符が並ぶばかりだ。
「あー…で?心配して…俺に会いに来たのかい?」
「ぇ…ぁ、はい」
「#name#…お前は…っ!?」
「…?」
間違いなく目元を拭った仕草をした彼は、私の肩をやんわり押しながら以前のように優しさを纏った眼差しで口を開く。
しかし少し目線が下がった瞬間、眉間に深い皺を寄せ固まってしまった。
「先…輩?」
「………」
険しい表情のままゆっくりと首元に手を滑らせ、そのままスルリとリボンをほどかれる。
そうして一つ、二つとシャツのボタンを外していく彼を不安な眼差しで見つめていると、一度目を伏せ次に向けられた視線にゾクリと背筋が凍り付いた。
「こんな痕付けて…何が心配して来ただ?あ?」
「ぇ…痕…っっ!」
あの日から毎日の様にローに抱かれた印。
何故か執拗に痕を残すローに、されるがままになっていた事を思い出す。
「っ…これは…」
「……」
「ぁ、あの…きゃっ」
凄まじい威圧を込めた眼差しを向け、食い込む程強く腕を捕まれベットに投げ捨てられた。
以前にもこんな事があったなと、どこか冷静に狂気に満ちた目の前の彼を見つめる。
「#name#…俺をバカにしに来たのかい?」
「バ…違いますっ」
「じゃぁ何だい?…あぁ…エースじゃ満足できなかったのかい?」
「エース…先輩?どうして…」
「あーもう黙れ…お望み通り抱いてやるよい」
「え…違っ、っ…いっ!?」
噛み合わない会話に困惑し否定しようと口を開いた途端、首筋に強烈な痛みを感じ顔が歪む。
まるで食い千切らんばかりに、首筋の…恐らくローが付けた痕の上からマルコ先輩は歯を立て食い付いていた。
「いったっ、マルコ先輩…痛いですっ」
「……」
「んっ、痛っ!!」
これ以上は堪えられないと言わんばかりに力を込め肩を押し返した。
痛みで涙を浮かべる私を冷たい目で見下ろすマルコ先輩に悲痛な眼差しを向ければ、お構いなしに残りのボタンを引きちぎられる。
「っ!先輩っ!」
「……ここと…ここ。同じ日に付けられた…痕じゃねぇな」
「っ、あの…」
「…抱かれまくってたって…訳かい?」
「あの、これは…」
「はっ…人の気も知らねぇで…いい気なもんだな」
「マルコ先輩…わたし、」
「うるせぇよいっ!何なんだい…お前は」
「っ…先輩…」
今日のマルコ先輩はよく表情が変わるなと、急に切なげな顔をし背を向ける彼にそう感じた。
ジンジンと疼く首筋を押さえながら、やはり噛み合わない会話が気に掛かる。
「あの…何でエース先輩が…」
「……付き合ってんだろい」
「…誰が…ですか?」
「……あ?#name#に決まってんだろい」
「っっ!?私がですか?付き合ってませんよっ」
「………あ?」
投げ捨てるように放たれた驚愕の言葉を聞き咄嗟に否定すれば、ゆっくりと般若の様な顔が振り返る。
「エースと…付き合ってんじゃねぇのかい?」
「付き合ってませんよ、誰がそんな事…」
「惚れてんだろい?エースの事」
「えっ?ち、違いますよ、私が好きなのは…っ」
「……は?」
「好きなのは…」
「……誰だい?」
「っ…」
まさか自分の事だとは微塵も思っていないのだろう。未だ般若顔で睨み付けてくるマルコ先輩に、そこまで出掛かっている言葉が中々出てこない。
言ってしまってもいいだろうか?
彼はどんな反応をするだろうか?
臆病風が吹き荒れる中、痺れを切らした彼が噛み付くように声を上げる。
「エースじゃねぇなら誰だよい!」
「っ、あ…あの、マ…マルコ…先輩…です」
「……は?」
「…………ごめんなさい」
「…俺が…好きだ…と?」
「っっ、ごめんなさい…」
威圧感に負け怯えながら口にした告白に、更に眉間の皺を増やした彼に思わず謝罪の言葉がでる。
言わなければよかった。
彼から次に出るであろう玉砕する言葉が怖くて仕方がない。
肌けた胸元を押さえ、何故か沈黙した彼を横目にゆっくりとベットから降りようと足を付けた瞬間、ガシリと手首を握られ真っ直ぐな視線を向けられる。
「っ、」
「今の言葉…本当かい?」
「ぇ……は、はい」
「俺の事が好き…なのかい?」
「…………好きです」
「そう…かい……#name#」
「わっ…」
探るように見つめる彼に再び気持ちを伝えれば、甘い声色で名を呼ばれ引き寄せられる。
先程とは違い、今度は優しく、包み込むような抱き締め方にみるみる不安は消えていき期待が顔を出す。
そうして消え入りそうな声で繋がれた言葉に、私は気絶しそうな程胸が高鳴っていくのを感じていた。