鬼畜な彼の愛し方 <img src="//img.mobilerz.net/img/i/63879.gif" border=0 align=absmiddle /> | ナノ

喪失×蔑み



突然の解放宣言から例えようがない喪失感で埋め尽くされた私は、掛けてくるなと言われた電話を意味もなく握り締めたまま朝を迎えた。

まるで死刑宣告でもされたかの様な面持ちで、唯一出逢える可能性がある学校で彼を探す。

しかしその日も、次の日も、四日経った今日に至るまでマルコ先輩の姿は見当たらず、沈むばかりで折れてしまいそうな心をぎりぎりのところで繋ぎ止めていた。

あの日伝えた言葉。
嬉しそうに微笑んでいたのはきっと私の見間違えだったのだろう。


そうして今日も彼の姿を捉えられぬまま終業のチャイムが鳴り響き、濃く深い溜息と共に教室を後にする。

四日…以前は嫌でも目にしていた彼を四日経っても見付けられない。
学校に来ていないのか?
家に行けば逢えるだろうか?

こんなにもマルコ先輩という存在が私にとって大切だった事を改めて思い知らされ、過ぎてしまった過去に後悔の波が押し寄せる。

彼に逢いたい。息が詰まる程そう感じた。

以前の様な扱いをされようが、対等じゃなかろうが、またマルコ先輩の傍に居れるのならば構わないと、何物にも変えられない彼への想いは募るばかりだ。


ズキリと痛む胸を押さえながら何故か直ぐに帰る気にならず、ふらりと足が向いた先は彼と初めて言葉を交わした別館の音楽室。

少しの期待と、今となっては懐かしさと愛しささえ覚えるこの場所へと足を踏み入れ、ゆっくりと視線を配らせた先には…

「いた…」

小さく呟いた声がやけに響く中、あの日と同じ席で顔を机に突っ伏して眠る彼を見付けた。

急速に鳴り響く心音に息苦しさを感じながら静かに彼の側まで歩み寄り、手が届く距離まで近付いた。
あの時の様にあどけない顔で眠るマルコ先輩を見つめ思わず鼻の奥がツンとなる。

やっと逢えた喜びと、彼に突き放された悲しさから心の中は複雑だ。
明らかに私への興味がなくなってしまったのだろう彼の反応が怖くて仕方ない。

目が覚めた彼はどんな顔をするのだろうか?
そして突然現れた私に何と言うだろうか?

どんな態度をとられようと、またマルコ先輩の傍に居たいと思った。
今までの様な扱いをされこの先後悔しようとも、今の私には彼しか見えない。


そんな追い詰められた想いは無意識に体を動かし、規則正しく揺れる肩にそっと手を添え身を寄せた。
彼の温もりに溢れんばかりの愛しさを感じながら、同時に我慢していた涙が込み上げ頬を伝っていく。

苦しいくらいに想いが溢れ胸が押し潰されそうになっていると、呆れたような、少し怒ったような声が鼓膜に届き咄嗟に体がビクついた。

「#name#……?」

「っ…」

そんな声にそろりと顔を上げれば、眉間に皺を寄せ怪訝そうな表情の彼と視線が交わる。

「#name#…何してんだい?」

「っ…マルコ…先輩」


私を捉えた瞬間、一瞬だけ驚いた表情を見せたがすぐに険しい顔に戻った彼は、冷たい眼差しを向け私の肩を押しやり距離をとる。

「誰かと思えば…なんか用かい?」

「っ…」

氷のように冷たく、そして初めて向けられた敵意を含んだ視線に体が瞬時に強張り出掛かった言葉がゴクリと音を立て飲み込まれた。

「マ……」

「もう…俺に近寄るな」

「ぇっ…」

「お前の顔なんて見たかねぇんだよい」

「っ…なっ…どう」

「失せろよい…」

「マルコせ」

「失せろっ!!」

「っっ…」

怒鳴り声と彼から発せられた耳を疑いたくなる言葉に、思わず後退り僅かに震える唇を隠すように強く結ぶ。

そうして厭でも気付かされる。
彼は私に飽きた訳でもなんでもなく、要は嫌いになったのだと。
それも私という存在事態に嫌悪と蔑みの念を強く持っているのだと。
そう彼の態度からひしひしと伝わってきた。

訊きたい事は頭の中で目まぐるしく渦巻いていたが、その想いが口から飛び出す事はなく、彼からの拒絶にうまく対処しきれない体は逃げ出すという選択権を選んだ。


何故こうなったのか、あの言葉がそんなに気に入らなかったのか、もう二度と彼の傍には居られないのか…

次から次へと浮かび上がる想いで心が壊れそうになり、涙で視界が妨げられながらも走る足は止まらない。

逢わなければよかった。
あんな言葉は聞きたくなかった。
彼の為ならどんな試練も乗り越えるという決意は意図も簡単に崩れだし、頭の中が真っ白になっていく。


そうして一気に掛け降りた階段の先で激しく誰かにぶつかった。
痛みで少し正気を取り戻し見上げた視線の先には、

「何やってんだ…ちゃんと前を見ろ」

「……ロー」

見知った顔に涙が溢れだしすがり付く様に彼の胸に飛び込んだ。
正直誰でもよかったんだと思う。
今にも凍りつきそうな心を温めてくれればそれでよかった。
呆れた溜息が頭上から落とされる中、いつまでも消えないマルコ先輩の言葉を掻き消す様に、背中に回した腕に力を込めたのだった。

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