鬼畜な彼の愛し方 <img src="//img.mobilerz.net/img/i/63879.gif" border=0 align=absmiddle /> | ナノ

兆し×変化



薄暗い部屋で顔を埋めたままうつらうつらとなり掛けたその時、無音だった室内にくぐもった音が響きビクリと体が跳ねた。

真後ろから聞こえるその音にそろりと首だけを向ければ、枕に顔を埋めたままの彼の手が何かを探すように宙をさ迷っている。

そんな不可解な行動ばかりな彼の下へ恐る恐る近付き、未だ聞こえるうめき声に耳を傾ければその正体は私の名を呼んでいた。

「…なんですか?」

「…こ……よ…」

名前以外は全く聞き取れない言葉を発する彼に、怪訝な表情を向けもう一度先程より大きめな声で問い掛ける。

「なんですか!?」

「……よ…」

意外と響いたその少し刺のある問い掛けにも変わらぬ反応で何かを呟きながらその手は未だにさ迷っていて、そんな宙を舞うばかりの彼の手にそっと自分の手を触れさせてみれば、待ってましたと言わんばかりにガシリと捕まれそのまま胸へと引き寄せられた。

「なっ!?マルコ先輩っ!離してくださいっ」

「…#name#……い」

「え!?もうっ、なんなんですか!?」

すぐ側で大声を上げているにも関わらず、むにゃむにゃと名前しか聞き取れない言葉を発する彼の顔は何故か幸せそうに微笑んでいる。

そんなマルコ先輩の緩んだ寝顔を見つめていると、なんだか抱えていた悩みがどんどんと薄らいでいくのを感じた。

まるで大事な宝物を抱いて眠るかの様にしっかりと背中に回された腕から伝わる温もりに、いったい私は何に苛立ち困惑し、彼に対してどんな感情を抱いたかさえも分からなくなってくる。

「もう…」

やり場の無い気持ちを思わず口にし、この幸せ顔で眠る彼の脳内は一体全体どうなっているのかと、見れるものなら見てみたいと本音とも言えるぼやきを思いながら、もう一度その顔に目をやった。

彼が、もしも彼が、私だけを見てくれるなら。私だけを必要とし、他の人には目もくれず傍に居てくれるなら。私だって虚勢など張らずに全てを捧げるというのに。

そんな悲願ともとれる叶わぬ願いが頭を過ぎった途端、苦しいくらいに胸が締め付けられた。

優しくされればすぐに揺らいでしまう自分の薄っぺらい決意に嫌気がさしながら、ふと、ある事が頭を過る。

そう言えば私は彼に言った筈だと。あの、私を従わせる根元を好きにしていいと。
となれば、なんに怯える訳でもなく、これからは対等に、そう対等に彼と接していってもいいのではないかと。
ただし、あの写真をばら蒔かれれば、彼には二度と会う事もその名を聞くのさえ嫌になるだろうけど。

そう思ってしまえば苦しかった胸が嘘の様に軽くなり、目の前ですやすやと眠るマルコ先輩が急に妬ましくなった。
人が心を痛め思い悩んでいたというのにこの幸せ顔はなんなんだと。

悪戯心も加担した私は、迷わず彼の鼻を摘み呼吸の邪魔をした。数秒後、息苦しさから身を捩り慌てた様子で瞼を開けた彼に、意地悪そうに口を開く。

「暢気に寝ないでくださいよ、バカ」

「………」

無理矢理夢の世界から引きずり出された彼は、まだ頭が回らないのだろう唖然と暴言を吐いた私を見つめたままだ。

そんな彼の腕の中から身を起こし、うつ伏せのまま肘を付いた体勢でしてやったりな顔を向けてやる。

「#name#……今鼻摘まんだろい?」

「はい」

「……なんで?」

「死んじゃえばいいな、と思って」

「…………」

笑顔でそう口にすれば、怪訝な表情を見せた後すぐにいつもの澄まし顔に戻り、ニヤリと口角をあげながら私の頬をさらりと撫で下ろす。

「怖いこと言うんじゃねぇよい」

「……」

「#name#…」

「ん………」


心内を素直に口に出し舌でも出しそうな顔を向ければ、苦笑いを漏らした後そのままさも当たり前の様に近付き重なった唇に、これからの彼との関係に少しの変化と期待にも似た不確かな感情が生まれてきたのだった。

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