鬼畜な彼の愛し方
| ナノ
不可解×唖然
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どれくらい歩いたのか体感でしか分からないが、疲れを訴えだした体がかなりの距離を歩いた事を裏付けている。
すぐ側にあった崩れた石垣に腰掛け、永遠と続いているかの様な暗闇を見据えながらマルコ先輩の事を考えた。
最後に絞り出した様な声で投げた拒絶の言葉を、彼はどう感じただろうか?
あのまま立ち去った私に声も掛けず追い掛けてもこないという事は、見切りを付けたのか、気持ちを汲んでくれたのか―
どっちにしろこれで彼とは決別したのだと、望んだ結末とはいえ少し名残惜しさも感じるのはまだ未練が残っているからだろう。
彼に対する嫌悪感は消えていないけれど、直ぐにはこの淡く染み付いた恋心は消えないだろうと溜息が漏れた。
そうして想い耽ながらも、どこまで続いているのか分からない暗闇を見つめ更に深い溜息がでる。
それでも道は続いていると、いつかは辿り着ける家路に向かって腰を上げた瞬間、後方から聞こえるエンジン音と共に私の足元に光が照らし出された。
その光に眩しそうな眼差しを向けていると、バタンと扉の閉まる音と近付く足音。
顔は逆光で見えないが、マルコ先輩だろうと察しが付いた私は逃げるように背を向け走り出す。
「待てよいっ」
「っ…」
逃亡虚しく逃がすまいとガシリと腕を捕られた私は、もう言葉を発するのも億劫な程疲れた体と砕け散った心の所為で、ただ口を紡ぎ俯いた。
「#name#…。取り敢えず乗れよい」
「……」
「ほらっ」
「…っ」
流石に車に乗る訳にはいかないと力強く引きずる彼に無言のまま抵抗を見せれば、お構い無しにぐいぐいとその力を緩めないマルコ先輩は助手席のドアに押し付けるように私を閉じ込め溜息混じりに口を開く。
「…送るよい」
「……結構です」
「こんな夜道を…あぶねぇだろい」
「大丈夫です」
「はぁ…いいから乗れよい」
「っ!大丈夫ですっわっ!」
無理やり車内に押し込まれ体制を整える暇もなく車は動き出す。
正直、追い掛けて来てくれた彼に少し目頭が熱くなったが、それをおおっぴらに表すのはプライドが邪魔をした。
そんな私から口を開く訳もなく、かといって彼も何故か一言も言葉を発さない。
時折出る私の浅い溜息だけが車内に響く中、漸く人工的な明かりが目の前に広がってきた。
やっと山を下りたのかと、あのまま歩いていたら一体いつ到着するのやらなどと少しぞっとした所で、動いていた車が何かの建物に入り停車する。
「え…ここは?」
「#name#…限界だよい」
「え?…なにが…」
「入るよい」
「っ!?いや、ちょっと…」
エンジンを切るなり意味不明な言葉を投げ掛け、足早に私の手を取りそのきらびやかな外観の建物に…
「ここっラブホテル!?」
「あ?あぁ…こんなトコで悪ぃがよい」
「いや、そうじゃなくてっ!私帰ります!」
「#name#。……眠いんだよい」
「は?ね、寝ればいいじゃないですかっ、なにを…」
「何もしねぇから…付き合えよい」
「ちょ、マルコ先輩っ!」
普段から眠たげな目を更に細めている彼は端から見ても明らかに眠そうだ。
しかし、だからと言ってあんな拒絶の言葉を吐かれ別れた後の行動とは思えない。
いったいどんな図太い神経を持っているのか疑問が頭を巡りながらも、気付けば部屋へと繋がる扉が開いていて私はまるで荷物かの様に中へ投げ込まれた。
「マルコ先輩!あの、私」
「寝る」
「ちょっと!マル…」
部屋に入るなり一言寝ると吐き捨て次々と服を脱ぎ出し下着のみになった彼は、まるで電池が切れたようにベットに倒れ込みすぐに寝息を立てだした。
その様子を未だ入口付近で呆然と眺めながら、あまりにも不可解な行動に思わず頬が緩み出す。
確かかなりの量のお酒を飲んでいたのを思い出し、よくここまで運転してきたなと感心しながらも彼が脱ぎ散らかした服を拾い上げた。
何を考えているのか想像も付かない程無邪気な顔で眠る彼を見つめながら、安っぽいビニール張りのソファーに腰掛けなんとも言えない溜息を吐く。
このまま彼が寝ている間に帰る事も出来たのだけど、何故かそうできない自分がいて、ソファーの上で膝に顔を埋めながらこの思わぬ展開に私は頭を抱えていたのだった。