鬼畜な彼の愛し方 <img src="//img.mobilerz.net/img/i/63879.gif" border=0 align=absmiddle /> | ナノ

涙×終止符



ゆらゆらと揺れる不思議な浮遊感を感じ、まどろみから一気に意識が浮上した私はその原因を確かめるべくパチリと瞼を開いた。
するとすかさず飛び込んでくる今最も会いたくない存在を捉えた途端、慌てて身を捩り手足をバタつかせる。

「いやっ!降ろしてください!」

「おいっ、危ねぇだろいっ暴れるじゃねぇよい」

「降ろしてください!放して!」

「おっおいっ」

寝起きとは思えぬ身のこなしで勢いよく飛び降り、あからさまに距離を取った。
そんな私を困ったような眼差しで見つめてくる彼をこれでもかと言う程睨み付ける。

「…なんて顔してるんだい?」

「……」

「はぁ……戻るよい」

「…嫌です」

「…#name#」

「嫌ですっ!戻りませんっ!」

「……なんでだい?」

「………」

頑なに言い張る私に彼が一歩足を踏み出せば、それに合わせて私も一歩後退る。
その行動にだんだんと眉間に皺の寄ってくるマルコ先輩に、私は更に距離を取り深く息を吸い込んだ後、僅かに震える体を奮い立たせ俯いたまま口を開いた。

「もう…マルコ先輩の言いなりにはなりません」

「#name#……」

「別荘にも戻りませんし…これから先も、もう…マルコ先輩とは関わりたくないんです」

「……」

「っ…もう…私に構わないでください」

「……はぁ」

「いやっ!触らないでっ」

俯いていた為彼の表情は伺えないが、しっかりと刺さる様な視線を感じたまま伸びてきた手を勢いよく振り払った。
それでも微動だにしない彼は懲りずに腕を伸ばしてくる。

「っ…触らないでっ!」

「……」

何度目かの手を払いのけたと同時に、叫ぶ様に拒絶の言葉を口にした。

その言葉を眉一つ動かさず聞き終えた彼は、ゆっくりと深い溜息を漏らし少し呆れた眼差しを向けてくる。

「何があったんだよい?」

「っ…」

「言ってみろい」

「嫌…なんです」

「…なにが?」

「…マルコ先輩が」

「……理由は?」

「そっ…そんなの…嫌なものは嫌なんです!」

「はぁ…。今このタイミングでそうなった理由を聞いてるんだよい。さっきまで…普通だったろい?」

「…っ。普通じゃないです」

「#name#」

「いつも…、いつも我慢してたんですよっ!だからっもう…我慢…できない」

「…あのよい、」

「嫌っ!!」

言葉を繋ぎながら再び伸びてきた手を払いのけた。

ほんの数時間前まで彼の事を想う気持ちがあったとは思えぬ程、まるで手のひらを返した様に今の私の心には嫌悪感しか宿っていない。

粉々に踏みにじられたこの想いは、同じ空気さえ吸いたくないとでも言うように彼との距離を更に広げる事で形になっていく。

「あの写真…」

「…写真?」

「あの写真。バラ撒くなりなんなり好きなようにしていいですから…」

「……」

「もう…二度と私に関わらないでください」

「…だからよい、なんでいき」

「嫌いなんですよっ!声も!顔も!触れられるのも嫌っ!マルコ先輩の全てが大嫌いなんですっ!!」

「っ…」

「…っ、もう…いやなんですよ…」

「っ、………」


最後にもう一度、彼への拒絶の言葉を吐き出した瞬間、堪える間もなくいくつもの涙が瞼を乗り越えた。

こんな形で終止符を打ってしまったこの恋に、自分で自分が泣けてくる。
それでもこれで最後だと。彼の事で涙を流すのはもうないのだと言い聞かせながら、落ちていた鞄を拾い再び僅な光しか照らされていないアスファルトを駆け出したのだった。

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