鬼畜な彼の愛し方
| ナノ
悲痛×事実
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やはりと言うか、この輪の中にいつまで経っても溶け込めない私が居た。
あれから彼の見せたかったと言う絶景の素晴らしさを聞かされ、小さな頃からこの景色が一番好きだと言うマルコ先輩の無邪気な笑顔に頬が緩み、それと同時にとても嬉しくなった。
一番好きな景色を私に見せたかったと言う言葉に、どうしようもないくらい好きな気持ちが膨張していく。
しかし、そんな幸せな時間はあっという間に通り過ぎ、今現在繰り広げられているこの恒例のお遊びに私は非常に居心地の悪さを感じていた。
「飲んでるか?ん?」
「あ、はい…」
「#name#に触んなよい」
「なーんだよマルコ、ケチケチすんな」
「チッ…」
既に出来上がっているのだろう兄弟の…ドレットヘヤーの彼が私の肩を引き寄せた途端、すかさず奪うように伸ばされたマルコ先輩の腕の中で、この飲み会なるものが恒例のお遊びなのかと少し疑問を浮かべた。
わざわざこんな遠出をする必要があったのかと。
「随分可愛がってるのね?ねぇ、マルコ。その子なに?」
「煩せぇ。話しかけんなよい」
「ひっどーい。ねぇ、何?あの子」
「あぁ…#name#ちゃんはマルコのお気に入りだ」
「お気に入り?なにそれ」
「何だ?嫉妬か?妬けるねー」
そんな目の前で交わされる会話を聞きながら、明らかに嫌悪感を向けてくる彼女の視線に思わず身を竦めた。
別に怯む事などないのだけれど、私以外皆、面識のあるような雰囲気がそうさせる。
「#name#あいつ等には打て合うなよい、バカがうつるよい」
「…」
さらりと目の前の女性に向けてバカ呼ばわりした彼は、特に女性達と会話を交わす訳でもなく兄弟の誰かと少し話をするくらいで、後はしっかりと私の肩に腕を回したままグラスを傾けるばかりだ。
一見楽しんでなさそうな感じの彼だが、たまに漏れる普段は見せない笑い声を上げる所を見ると、十分満喫しているのだろう。
そうして特に会話もしない私はひたすらグラスを口に付けていて、気が付けば少し頭がふらりとしてくる。少し酔いを醒まそうと、着いて行くと聞かない彼にすぐに戻ると断りを入れ漸くこの居心地の悪さから暫し開放される。
洗面所で顔を洗い、すぐに戻る気がしなかった私は外の空気でも吸おうとテラスに向かおうと足を向けた先に、まるで待ち伏せでもしていたかの様に立ち塞がるあの一際美人な彼女が立っていた。
「ねぇ、あなた。ちょっといい?」
「……」
「そんな怖い顔しないでよ、別に何もしないわ」
「…何か…用ですか?」
「そうね…あなたマルコの何?」
「……」
「フフ、まぁいいわ。大人しそうな顔してすごいテクニックでも持ってるんでしょう?」
「っ…」
「それよりお願いがあるんだけど、聞いてくれない?」
「お願い?ですか?」
「そ。あのね…−−−」
さして私とマルコ先輩との関係に興味もなさげに投げ掛けられた言葉だったが、彼女の言う事に否定できない自分が無性に虚しかった。
彼に求められているのは体だという事は従順承知だ。しかし面と向かって他人に指摘されると居た堪れない気持ちになる。
そんな人の気も知らない目の前の彼女から続いたお願いの言葉に、私は息をするのも忘れるくらい絶句してしまった。
「え?どういう…意味ですか?」
「えー?何?何も聞かされてないの?だから、あなたの後、私を抱くようにマルコに言ってくれない?」
「私の…後?」
「そうよ。ねぇ、ほんとに聞かされてないの?この集まり、あのぼんくら兄弟達がちょくちょくやってる乱交パーティーなのよ?」
「乱交…パーティー!?」
「えぇ。取り敢えずパートナー連れて来て一通り抱いた後、連れの相手と交換するのよ、同じ相手じゃ飽きちゃうでしょ?」
「っ…」
「この前はアタシ、マルコに連れて来られたんだけど…あの兄弟の中でマルコが一番体の相性がよかったのよね。だから、ね?あなたから言ってくれない?今日の彼、機嫌悪そうじゃない?」
「っ……」
「ねぇ、聞いてるの?あっ、ちょっと!!」
震える体で何とかそこまで聞き終えた私は部屋へと一目散に駆け出した。
持ってきた鞄を手に取ると、ぐるぐると回る彼女の言葉をかき消すように再び外へと続く扉へと走り出したのだった。