鬼畜な彼の愛し方
| ナノ
戒め×印
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普段よりスピードを上げた車はすぐに彼の向かう目的地に到着した。
今朝訪れたばかりの彼の自宅に再び舞い戻って来た私は、見慣れたその風景に少し安堵感さえ覚えてしまう。
そうして無造作に車を停めたマルコ先輩は、エンジンを切るなり足早に部屋へと私を促した。
「見せてみろい」
「ぇ…ぁ、大丈夫です」
「いいから見せろよい」
「っ…わっ!ほんとに大丈夫です」
「つべこべ言うなよい…っ、真っ赤じゃねぇかい…」
「ぅ…は、はぁ…」
部屋に入るなりソファーに座らされ押さえた胸を見せろと言うマルコ先輩。
いくら偽造したからと言って間近で見られては気付かれてしまうかもしれないと、確認したがる彼に抵抗を試みたが難なく抑え込まれてしまう。
それにしてもローは何て事をしてくれたんだ。見下ろしたその赤は、拳より一回り小さいほどに赤く腫れ上がっていた。
「…寝惚けてこけたのかい?取り敢えず冷やさねぇとな」
「…はぃ」
これがキスマークの偽造工作とは思いもしないマルコ先輩は、眉間に皺を寄せたまま少し呆れた面持ちで部屋を出ていった。
きっと冷やす道具でも取りに行ったのだろう。
そうして一人残された部屋で、バレなかった事への安堵の気持ちと自分の行動の愚かさに嫌悪感を込めて盛大に溜息を吐いた。
それから自己嫌悪に陥る暇もなく何やら小脇に抱え戻ってきたマルコ先輩は、隣に腰掛けるなり赤く腫れ上がった胸元に冷たい氷嚢を押し付けてくる。
「っ、冷たいです」
「当たり前だろい…こんなに腫らして」
「っ…」
「他は痛くねぇのかい?」
「はい…大丈夫です」
「ったく…心配掛けんなよい」
「……すみません」
未だ皺を寄せたままのマルコ先輩はぶつぶつと小言を言いながらも、その目はとても心配そうに胸元に向けられていて、そんな彼に罪悪感がじわりと浮かんでくる。
「暫く冷やしてろい」
「…ありがとうございます」
「はぁ…ドジにも程があるよい」
「っ…」
呆れた溜息を吐きながら私を優しく胸に閉じ込めるマルコ先輩に、どうしようもなく胸が締め付けられる。
ついさっきまで他の男に抱かれ唇を重ねていた私を、それを隠す為にわざと腫らした胸元を労る彼を、愛しさと比例するくらいに後ろめたさが押し寄せる。
「#name#、今度から気を付けろよい?」
「…はぃ」
「ん、…#name#」
「………はっ!ち、ちょっと待ってください!」
「…っ?」
頬を撫でながら近付いてくる唇に目を閉じようとした刹那、ローの言葉が蘇った。
間接キス…そんな気味の悪い事をマルコ先輩にさせる訳にはいかない。
「ぁ…あの…」
「…どうした?」
「ぇっと…」
「……?」
「ぉ…お風呂」
「風呂?」
「入ってなくて…その…」
「…風呂に入りてぇのかい?」
「ぅ……はぃ…」
「……ククッ。抱かれる気満々だねい?」
「ち、違いますよっ」
「ククッ。あぁ分かったよい、風呂入ろうかい?」
「……ぅ……はぃ」
咄嗟に出た回避策は事もあろうか思わぬ方向に向かってしまい、何故か私はお風呂を借りる結果になってしまった。
そうしてクツクツと愉しそうに喉を鳴らす彼に連れてこられた脱衣場で、さも当たり前の様に服を脱ぎ出すマルコ先輩を困惑した表情で見つめる。
「ぇ…一緒に入るん…ですか?」
「あぁ」
「いや…ぇ?」
「ほら、念願の風呂だろい?脱げよい」
「わっ!じ、自分で…脱ぎますよ」
「ククッ…じゃぁ脱げよい」
「っっ」
まるでストリップショーでも見るかの様にニタリと笑みを浮かべながら此方を伺う彼に、羞恥心が沸々と沸き起こる。
裸なら何度も見られているが、こうも直視されると手が止まってしまう。
「どうした?」
「み、見ないでくださいよ」
「んー?照れてんのかい?」
「っ…照れますよ」
「フッ…可愛い事言ってんじゃねぇよい、ほら」
「わゎっ!あっ!……マルコ先輩…」
「もたもたしてるからだろい。入るよい」
「……はぃ」
結局彼に脱がされ浴室へと足を踏み入れた。
普通の家庭より何倍も広い浴室に呆然と立ち尽くしていると、いきなり温かい水が顔に直撃する。
「ぶっ!な、何するんですか!?」
「ボケーっとしてるからだよい。こっち来い」
「ぅ…わっ!」
そうして子どもの様にはしゃぎながら勢いよくシャワーを掛けてくるマルコ先輩に頬が緩みながらも、胸の奥にある蟠りの塊は消える事なく、まるで赤く腫れた印が戒めの様に目に焼き付いて、私の心に濃い影を落としていったのだった。