鬼畜な彼の愛し方 <img src="//img.mobilerz.net/img/i/63879.gif" border=0 align=absmiddle /> | ナノ

変化×遮断



無言で車を走らせるマルコ先輩をチラリと盗み見しながら、ピリピリと肌を伝わる痛いくらいの気まずい空気に、心の中で深い溜息を吐いた。

それに、少し怒っている様にも見えなくはない。
いきなり電話を切った事がそんなに癪に触ったのだろうか?

そんな私に違和感でも感じたのか、沈黙を破った彼のいつもより低めの声がやけに耳に響いた。

「どうした?寒いのかい?」

「っ…いいえ」

「…そうかい」

「っ!?いや、あの寒くありませんよ?」

「いいだろい、別に」

寒いなど断じて口にも態度にも出していないと言うのに、スッと伸びてきた彼の手は私の手を包む様に握りしめ、その感触と温もりを感じた途端思わず体が強張った。

「っ…」

「ククッ、何照れてんだよい?」

「て、照れてなんかません…よ」

「へぇ…」

見透かされた心に声が上ずる。いつの間にか指を絡める様に繋がれている手から伝わる僅かな温もりが、なんだかもどかしいくらいむず痒く照れ臭い。
それに好きだと認めてしまった今の私には、十分過ぎる程羞恥心を煽る行為に過ぎなかった。


そうして火照る顔が治まらないまま到着した彼の家で、毎度の如くグイグイと手を引かれ部屋へと向かう彼の背中を見つめながら、無性にいたたまれない気持ちに襲われる。

何故いきなり家に来たのか?さっきの女性は?
そんな聞きたくても口に出せない立場と現状に虚ろな空気が私を覆い尽くしていく。

そうして扉が閉まるなりいつもの様にベットへと押し倒された。

「っ!せ、先輩っ!!」

「なんだよい?」

「だ、だって…」

だって…さっきまで女の人と居たじゃないか。その人と…

「#name#…」

「ぃや…」

「っ…」

胸元のボタンを外していく彼の手を何度も払い除け、体を隠す様に敷いていたシーツを身に纏った。

それでも力任せに剥ぎ取ろうとするマルコ先輩の体から、僅かに鼻を掠めた女性物の香水の香り。
その匂いがした瞬間、我慢していた感情が形となって溢れだした。

抵抗を止めた私を手慣れた手付きで脱がし体をまさぐり出す彼に、数時間前まで同じような事を他の人にもしていたと思うと…溢れる涙は留まる事なく溢れ出す。
彼からしたら私も、その女性も同じなのだろう。
欲を満たす為の道具に過ぎないのだ。

苦しかった。悲しいなんて並みの言葉では言い表せないほど心が崩れ落ちそうだった。
彼を好きだと想う自分が憎らしい。どうしてこんな人なんか…

溢れ出す想いの形は、遂に嗚咽を伴い音になる。
そんな音に気付いた彼は、手を止め怪訝な態度で頬を伝う涙に手を伸ばし優しい手付きで拭っていく。


「…なぜ…泣いてるんだい?」

「ック…ヒック…」

「#name#……そんなに嫌…かい?」

「…っ…ック」

嫌…嫌だ。他の人を抱いていた彼も、そんな彼に抱かれる自分も。全部全部嫌で堪らない。

「っ…#name#…」

何故か苦しそうに名を呼ぶ彼は、ゆっくりと目元を覆っていた私の腕を退かし流れる涙に唇を寄せてきた。
そんなマルコ先輩を捉えた私は、彼の表情に思わず息を呑む。
なぜなら…なぜなら彼は、きっと私よりもずっと哀しそうな目をしていたから…

「っ…な、なんで…先輩がそんな顔っ…するん…ですか?」

「…#name#が…泣いてるからだよい」

「ぇ…なんで…」

「泣くな。嫌ならしねぇから…よい」

「…せん…ぱい」

「はぁ………寝るか」

「ぇ?せ、せんわっ!!」

願いが通じたのか行為を中断し寝ようと言い出した彼は、胸に閉じ込める様に私を抱き寄せ大きな溜息を吐いた。

嬉しい様でかなり戸惑ってしまう複雑な心境の中、それでも彼の体から香る匂いに私はくるりと身を捩り彼に背を向けた。
こんな匂いに包まれてなんてとてもじゃないけど眠れる訳がない。

「なんだよい…俺と寝るのも嫌かい?」

「……ぇ」

「あ?なんだい?」

「……いいえ」

「………」


少し空いた隙間を埋める様に彼の腕に力が入り背中に温もりを感じる。
耳元に吐息を感じながらこの状況に私は頭を抱えた。

嫌がる態度を見て止めてくれた行為。今にも泣き出しそうなあの切ない顔。そうして優しく包み込む様に回されている腕。

どうして?マルコ先輩は何故こんな私を惑わす様な事をするのか…
考えても答えの見いだせない問題を抱えながら、いつまで経っても眠くならない体に言い聞かせるように、私は瞼を無理矢理閉じたのだった。

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