君の光と僕の影 | ナノ
#06 退光
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あの日から私は事あるごとにマルコの家に居座った。
しなくてもいいと苦笑いを浮かべるマルコを受け流し、家事全般をまるで押し掛け女房のようにかってでる。
「#name#、無理すんなよい」
「ん、大丈夫だよ。好きでやってるから」
仕事と家事を両立する私をマルコが心配そうに気遣った。正直楽ではなかったが、クロに別れないという姿勢とマルコへの愛情を示せば、少しはこのぎすぎすした関係が無くなるのではないかと考えたのだ。
そんな歩み寄る私とは反対に、クロは益々距離を広げていく気がしていた。
「あ、おはようクロ。お風呂?」
「……」
「ちょっと…待ってね、洗濯が――っわっ!」
「…どけよい」
「な、私が居るのに脱がないでよね、もうっ」
「……知るか」
「……」
振り向き様に飛び込んできたクロの一糸纏わぬ姿に、思わず非難の声をあげればあからさまに邪険な態度で返される。
そんな彼に反抗的な目線を送りながら溜息交じりに脱衣所を出れば、マルコが不思議そうな顔付でこちらを窺っていた。
「どうした?大きな声だして」
「クロが…いきなりお風呂入ろうとして」
「あぁ…ククっ、真っ裸見ちまったのかい?」
「…うん」
そりゃ災難だったなと、ケラケラと笑い声を上げるマルコに更に溜息を吐いた処で、既に仕事着に着替えたクロがそそくさと玄関に向かう姿を捉え慌てて駆け寄った。
「お風呂早いね、あ、はい。お弁当」
「…いらねぇよい」
「なんで?持ってってよ、ほら」
「いらねぇつってんだろい!」
「あっ―!!」
差し出した弁当箱を勢いよく払われ、驚愕する私をものともせずクロは扉の向こうに消えていった。
無惨に散らばったおかずを拾いながら沸々と怒りが込み上げる。
どう育ったらあんな捻くれた性格が構成されるのか。
「どうした?あー、すまねぇ#name#」
「ううん、いいの。…ねぇ、マルコ。私…なんで嫌われてるのかな?」
「…、嫌われてるっていうか、誰にでもなんだい」
「誰にでも?」
「あぁ。だから#name#がどうこういう問題じゃねぇよい」
「…そっか」
「あーでもよい、#name#にはかなり懐いてると思うよい。以前は手が出てたからねい」
「……そう」
歩み寄っても一向に縮まらない距離に、これまで内に秘めていた疑問を思わず吐き出した。
その問に苦笑いを浮かべながら答えてくれたマルコは、私だけじゃないのだと、何度言い聞かせても直らないのだと、どこか哀しそうな、そして初めて見せる辛そうな顔をしていた。
宥めるように付け足された言葉に暴力ならもう受けたと内心突っ込みながら、それでも切なそうな表情を見せたマルコに、これ以上踏み込めない壁のようなものを感じ口を閉じる。
訊いた事に後悔しながらも、自分だけではない事に安堵する気持ちと、何かもやりと霧がかかった様にすっきりしない気持ちが生まれ、それと同時に少しだけ疎外感が心の中に広がった。