君の光と僕の影 | ナノ
#02 意光
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朝から苛つかせるクロを送り出した後、彼を起こしに寝室へと向かった。
扉を開けると、今まさに起きたと言わんばかりに上半身を起こし目を擦るマルコが飛び込んでくる。
そんな彼に歩み寄り目覚めのキスを送れば、顔を緩め言葉の代わりに唇が降ってきた。
「クロはもう出掛けたのかい?」
「うん、今日は早いんだって」
「ん、よし、起きるよい」
私を包み込んだままベットから足を下ろし、そのままの体勢でリビングへと向かう彼に胸の辺りがきゅっとなる。
クロがいない時は、いつも最大限に甘えてくる彼が可愛くて仕方がない。
彼も決してクロの事を邪魔だとは思っていないだろうが、こんな風に二人の時間を満喫するところがまた私の気持ちを高揚させていく。
二人分の珈琲を淹れて隣に腰掛けた。
これが定位置。向かいはクロ。
当たり前のように位置付けられた配置にもだいぶ馴染んできた。
美味しいと私の作った朝御飯をあっという間に平らげ、ほどなくして仕事に向かった彼を送り出しもう一度珈琲を淹れる。
それを持って今度はリビングのソファーに座った。
現在私は仕事をしていない。以前勤めていた会社を辞めた理由は二つある。帰りが不定期な事。もう一つはいけすかない上司がいた事。そんな理由で辞めてから一悶着あり、婚約を期に今や彼等の稼ぎで生活させてもらっている。
させてもらっている。
そんな下手に出るような大和撫子根性は正直持ち合わせていなが、それに見合う働きはしているつもりだ。
そんな事を考えながら、あと二口程で飲み干してしまう珈琲をそのままシンクに流し脱衣場へ向かった。
見合う働きは底を知らない。探せば幾らでもあるそれを一つ一つ片付けていく。
次は洗濯、その後は洗い物に掃除。そして買い物に夕飯の支度。
考えればこちらの方が余程ハードな仕事ではないのか?そんな考えが過るほど時間があっという間に過ぎていく日々を送っていた。
脱衣場で洗濯物を仕訳していると、ふと手に取ったクロの仕事着に思わず目が細まった。
整備士の仕事をしているクロのつなぎだ。
ベットリとオイルの染み込んだそのつなぎは個別で一度手洗いしなければならない。
それを洗剤を入れたタライに浸けながら、ふと笑みが溢れた。
以前私はクロの洗濯物だけ洗わなかった時期がある。憎くたらしくて仕方なかった時期があるのだ。しかしそれは一過性のもので、すぐに私は気持ちを入れ換えた。
マルコと共に居る以上、通らねばならぬ道だと半ば諦めに似た感情もあったからだ。
それも今思えば笑みが溢れる笑い話になりつつある。
そんな過去に頬が緩みながら洗濯物を干し終えリビングに戻れば、チェストにコトリと置かれた写真立てに目を奪われた。
そこには私を中心にして右にマルコ、左にクロが写っている。私とマルコは笑顔なのに対し、クロだけふて腐れた顔で写る様子に思わず吹き出してしまう。
いつの日かこの捻くれクロの顔を笑顔に変えたい。そんな胸踊る未来を描きながら彼等との馴れ初めを懐かしむように目を閉じた。