君の光と僕の影 | ナノ
#32 逢光
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立ち尽くしたまま、自分の携帯の着信音を他人ごとの様に聴いていた。
「なぁ、鳴ってるよい。出ねえのかい#name#?」
リフレインするように再び届いたマルコの柔らかな声にハッとして、ゆっくりと通話を押した。
「…クロ?」
何が起きているかを知らないクロは、マルコとは少し違う優しい声で私を呼んだ。
それは、あまりに普段通り過ぎていて逆に私の内側を動揺させる。
何も、悪い事はしていないとクロもマルコも、サッチさんでさえ言ってくれるのに。
簡単に、動揺する。
『どうした?#name#。…まさかサッチの阿呆が馬鹿な気でも、』
「違う!違うよっ?それは大丈夫だから。今もちゃんと家に着いてっ、ぁっ」
後ろから抱きしめるように。
果たしていつの間にそう動いたのか判らない位突然にマルコがそっと私の手から携帯を引き抜いて奪う。
私の耳のすぐ後ろで、少しだけ低めた声が項をくすぐる。
「クロか?…あぁ、すまねぇよい。仕事が片付いたから切り上げて帰って来たんだい。まだ遅くなるかい?」
極、普段通りにマルコとクロのやり取りが交わされていく。
それがクロとベッドに横たわった夜のやり取りと重なって居たたまれず下を向く。
現実なんだけど、頭がついていかない。
「じゃあ、待ってるよい。」
その言葉を合図に切電されたらしい携帯がスッと私の目の前に差し出される。
マルコのすらりと伸びた指先をただ見つめて硬直したままの私に気付いたのか、背中でクスッと微笑の音をマルコが零す。
「うぉっほん。…あー、お取り込み中悪いんだけどな?一応オレが居るって事を、もう一度お知らせしとくぜマルコ?」
サッチさんが居てくれて良かったと思う。心の準備が出来て居ない私には、ただサッチさんが居てくれるというだけでも何となく心強かった。
「あぁ、知ってるよい。ついでに上がって珈琲でも飲んでったらどうだい?久々に顔合わせたんだ。」
マルコのその言葉に、サッチさんはチラッと私の顔を見て目が合ったと同時に少しだけ笑いかけてくれた。
「んじゃ、そーすっかなー。マルコはどうでもイイけどよ、#name#ちゃんの顔はもうちょい眺めときてぇしな?」
「ハハッ、相変わらずじゃねぇかい。…#name#、クロはもう少し遅くなるらしいからそれまでサッチ上がらせても構わねぇかよい?」
「ぁ、う、うんっ。」
背中から離れたマルコが、携帯を私の左手に握らせてそのままさり気ない流れで空いている右手を掴んだ。手を繋いだまま、マンションの入り口に向かうマルコの背中を今度は私が眺める形になることが可笑しかった。それに、マルコと手を繋ぐなんて永いこと無かった気がする。
「妬けちゃうねぇー。俺も#name#ちゃんと手ェ繋ぎたーい」
私達の後ろをついて歩くサッチさんが、口を尖らせ気味で茶化すように言うと不意にマルコが歩きながら振り返って優しく笑った。
「そんな事したら#name#が困っちまうよい。サッチ、我慢してくれよ?」
のんびりと、まるで日だまりのように。
クロならばサッチさんに拳骨の1つでもするだろう事柄に笑って答える。
あぁ、マルコだ。
そう今更のように感じた。
「ん?…どうしたよい#name#、俺の顔に何かついてるかい?」
「…ううん。あぁ、マルコだなぁって思ったの。」
「はははっ、何だい急に。」
もしかしたら本当にマルコは、私とクロの事を受け入れているのだろうか。
普段と何の変哲もない彼を目の当たりにして「嬉しい。」と言ったあの時のマルコの言葉がハッキリと私に響いた気がした。
「…おかえり、マルコ。まだ言って無かったね。」
「#name#…あぁ、ただいま。」
「デレッデレするマルコなんて、久々に見るなぁ。流石は一卵性ってトコかぁ。」
2人の様子を眺めていたサッチは目を細めながら誰に聞こえるでもない声でぼやいた。#name#の事を思えば、少なくとも兄弟が顔を合わせるまでは居座るべきだという気がする。
「なぁ。マルコ」
「なんだい、サッチ?」
そのためにするべきは恐らくただ一つ。
少し面倒だが、まぁ仕方ないだろう。
「久々だからよー、お前らの夕飯位作って帰るわサッチ様が。その代わり珈琲は#name#ちゃんに淹れてもらいてぇけど。」
「本当かよい?そりゃクロも喜ぶなぁ」
自分のお人好し振りに若干辟易しつつも、昼間の出来事に少なからず感じたままの#name#への責任を果たしておきたい。
サッチは顎髭をさすりながら片方の眉を吊り上げ、#name#に伝わるようニヤリと笑ってみせた。