君の光と僕の影 | ナノ

#28 明光



さすがに、早起きは出来なかった。
お風呂に入ってお弁当と朝食を作って
支度をしたら時間に余裕なんて無い。


「#name#、そんな焦んなよい。就業時間なんて在ってねぇようなもんだ。」


新聞に目を通しながら、カフェオレを飲むクロがアワアワする私をみて笑う。
工場は毎朝、エースが開けてくれるから別に気にしないでいいと。


「だって、エース独りぼっちじゃない?」


真面目にそう思ったんだけど、クロには少し不服だったらしい。



「じゃあ1人で先行けよい。エースエースうるせぇ奴。」



…いや、一度しか言ってないよね。



「えっ?…クロ、もしかして…」


「なんだい、ニヤニヤ気色悪い」


「ヤキモチですか?そうですか?ええ。わかります、わかります。ブフッ!!クロが…ヤキモチっ!」


「#name#テメッ、もっかい犯す!!」


「アハハッ!クロが切れたー!!」




一夜明けて私達は何にも変わらなかった。
勿論、一緒に目覚めて、お風呂に入って。「おはよう」とクロのキスが落ちてくる所とかは、変化したんだと思うけど。



私は私のままで。クロもクロのまま。
それが、嬉しい。
マルコが帰ってきてからも
変わらない、だろうか…。



「オラ、行くよい!ったく、笑ったり辛気臭ぇ顔したり忙しい奴だねいお前は。」



ヒョイと大振りなお弁当袋を掴んで、呆れたようなクロが控えめな溜め息をついて、大きな手を片方、開いて差し出す。
やがてピラピラと揺らして見せてる。



「早くしろい#name#。それとも、抱っこしてバイクまで行くか?ん?」



慌てて走って、クロの手を掴んだのは言うまでもないと思いますが。
不思議だったのは、あんなに怖いバイクが少しだけ平気だったこと。
やっぱり怖いんだけど、しがみつけばクロの匂いがするから、ちょっとだけ嬉しい。そんな余裕が生まれてた。







――――――――

―――――――――


「おぉっ!#name#オハヨー!!」


真っ白なツナギの胸元から赤いTシャツを覗かせて、エースが額を拭いながら笑う。1日しか過ごして居ないのに、もうすっかり永い友達のように思う。


「おはよう、エース!今日はね、エース用にお弁当の量を増やしてきましたー!」


パァァっという音が聞こえそうな程に破顔一笑してエースが子供みたいにギュウゥと抱きつく。


「もーめっちゃ嬉しいっっ!!#name#大好き!!俺今日仕事すげぇ頑張れそうだっ。マジでサンキューな?」


スリスリと胸に閉じ込めた私に頬ずりをしながらエースが嬉しそうに御礼?をしてくれた。



ガンッ!!



「い゛ってぇっっ!?」



悲痛な叫び声がして、エースの体が離れた。というか、下に崩れ落ちるようにしてしゃがんだのだけれど。
すると、自動的に目の前に、仁王立ちのクロが拳のまま不機嫌そうにエースを睨むという風景が広がった。



「さっさと仕事しろい、エース!…それ以上コイツに引っ付いたら拳骨どころじゃ済ませねぇからな?…わかるだろい?」



アウアウと口をパクパクさせて、涙目のエースを見下ろしてフンッ!と鼻を鳴らした後、クロが私を睨む。



「#name#。オメェも、ヘラヘラ喜んでんじゃねえよい!!犬かいっ!!」



ポンと頭に手を置いて、ニヤッと悪い顔をしてる。思わず引きつって、笑い返してから少し頷いた。
…夜がちょっとコワい。かも。



立ち去るクロの背中を眺めながら意外にも嫉妬深い事を驚いて、そして、嬉しいと、思ってしまった。
きっと、私はもうクロにとって他人では無いんだなって。
目には見えない胸の内側が温かくなった。




ボーっとそんな事を思ったら、いつの間にかケロッとして立ち上がっていたエースが私の背中でポツリ、呟いた。




「っかしーな?何かさ、#name#からクロの匂いがしたんだよなー。…なぁ、#name#。クロと何かあったか?」




エースの侮れない鋭さに苦笑しつつ、まだマルコに会うまでは伏せようと決めて、笑いながら首を振った。




「そっかー。クロの奴、昨日より#name#の彼氏みてぇな優しい顔すっからさー、てっきり告白でもしたかと思ったんだけどなー。…んー。ま、いっか!」



やっぱり、エースは
侮れないみたい。



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