君の光と僕の影 | ナノ
#01 朝光
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耳を掠める冷気を含んだ雨音にうっすらと目を開ければ、その隣には愛しい存在が未だ気持ち良さそうに寝息を立てている。
彼の名はマルコ。つい先日婚約し花嫁修行も兼ね現在同棲中だ。
指先で優しく頬をなぞりながら、起こさぬようこっそりとベットを抜け出した。
彼が起きるまで後三十分余り。それまでに朝食を作り支度をし、そこまで考えて静かに扉を閉めた。
着替えを済ませキッチンに立つ。今日は軽めの洋食にしよう。トーストをオーブンにセットし冷蔵庫からベーコンと卵。それにレタスを取りだしキッチンに並べる。
私と彼は半熟目玉焼き。後もう一つはきっちり火を通したスクランブルエッグ。
もう一つ。
何故もう一つ朝食を用意する必要があるのか――
マルコとはまだ出会って一年と経っていない。
そんな浅い期間で、既に婚約まで至ったのには訳があった。
その切っ掛けを作ったのがもう一つの正体。
「おい、朝飯まだかよい」
「…おはようが先でしょ?ったく出来の悪い弟持つと大変だわ」
「誰があんたの弟だい…いいから飯」
「弟でしょ?マルコと結婚したら必然的に私はあんたの姉になるんだから」
「ちっ…今日早いんだい、さっさと飯作れよい」
「なっ!朝からむかつく!」
こいつ。愛しの婚約者様の弟。と言っても瓜二つの双子だ。
姿だけ見ればそれはもう見分けが付かない風貌だが、違う箇所もちらほら。
まず一番の見極めは髪の毛。マルコの綺麗な金髪と違い真っ黒だ。
それとチャラチャラと耳に開けたピアス、後少しだけマルコより肌の色が白い。それから少し高めの声。
あぁ、目付きもマルコより断然悪い。性格も。
そんな彼の名はクロ。
見たまんまの名前に初めは吹き出しそうになったが、それをさせない恐ろしい眼力を飛ばしてきたのを今でも鮮明に覚えている。
そして一番厄介なのが、尋常じゃないブラコン。
普通兄弟が婚約者と同棲を始めれば、自然と離れるのが常識だ。
なにも特に不自由な身体でもあるまいし、何故かクロは当然の様に共に住んでいる。
まぁ、それを受け入れた私も私だが、それがまるで当たり前のように感じるのだから仕方がない。しかし、ここまでくるにはそれはそれは苦労と葛藤、そして屈辱的な思いもしてきた。
それでも憎めないなにかがあって、優しい一面もちらほら。今の様に普通に会話出来るようになったのも、以前を振り返れば信じがたい光景だ。
未だによく分からない行動をするのは謎のままだが。
しかしここまでこれたのも私の努力が八割は占める事を、このバカに一生掛けて分からせるつもりだ。
「てめぇ、早く飯っつてんだろい!」
「だぁー朝から煩い!」
「あ?ただでさえ雨で苛ついてんのによい、早くしろいクソ#name#」
「殴っていい?」
「アホ#name#」
「……」