君の光と僕の影 | ナノ

#25 受光



「…なんだよい、マルコ。」


私を見つめながら、クロが口をゆっくり開く。多分、予想していなかった名前に私の頭がついていかない事もあるんだと思う。
覚悟した筈の気持ちは、急激に背徳感を訴えて無意識にクロの腕に触れて掴んだ。


「――――――――。」


携帯の僅かな漏れる音に、ハッキリとマルコを理解して居たたまれなくなった。
悪いことをしている。
逃れようのない今に、胸の奥が痛む。



「居るよい。別に問題がねえと言えばねえし、在ると言やあるねい。…あ?……。」


クロは、マルコに伝えるつもりなんだと
その緩やかにつり上がった口元を見てそう思った。息を呑んでクロの目をただ見る。


僅かだけど、クロの目が優しく感じて、
ここで嘘をつく事は絶対に駄目だと、
その位の覚悟でなければならないと知る。


「今から、二人で寝るよい。…手、出すかもな。何なら#name#の鳴く声聞くかいマルコ?……あぁ、そうだよい。」



ニヤリと意地悪く笑うクロが、すごく余裕に見えて驚く。
マルコは、電話越しに聞く限りだけれど、声を荒げて居る様子はない。



「クロ…。」



チラッとクロが私を見て携帯を耳にあてがったまま、ゆっくり覆い被さるように顔を降ろして唇が音を立てる。
わざとらしく音をたてるように何度も離れては触れ、触れては離れる。




――マルコに全て、伝わって居る。




それはとても怖いことなのに、恥ずべき事なのに、私は何処かでホッとしていた。



「クロ、#name#に代われよい。」



クロが顔を近づけたせいで、今度はハッキリとマルコの声が私にも聞き取れた。
それは、「いってきます」を言うときと何ら変わらない穏やかな声で、正直に言えば困惑をした。



クロの耳から外れた携帯が今度は私に押し当てられる。クロが携帯を持ったままで、フッと私に笑いかける。


「大丈夫。」


そう言いたいんだと思った。



「#name#、聞こえてるかい?」


優しく、穏やかなマルコの声。戸惑いながら言葉を返す。


「…うん。」


「俺が怒ってると思ったんだろうよい?…違うかい?」


「怒ら…ないの?」


「ああ。いいんだよい、俺達はコレで。」


「でもっ、」


「いいかい、よく聞けよい#name#。俺達は二人で一人なんだよい。そうやって生きて、きたんだい。…」




―――俺が大切にしてるものを
―――お前達も大切に思ってくれて
―――嬉しいんだよい。#name#。




優しく、諭すように多分笑いながら
マルコはハッキリそう告げた。




「返事はよい?#name#。」



「…わかっ…た。」



「ありがとよい。クロを愛してくれて。」



――――愛してる。



そう最後に告げて、マルコが電話を切った



携帯をベッドサイドに置いて、強く。ひたすらに強くクロが私を抱きしめる。
恐る恐る、私の指先がクロの髪に触れた。



「悪かった…な。」


「え?」


「無理矢理シた事、謝れって煩かったろうよい、お前。」




悪戯な顔をして、間近でクロが笑う。



「ずっと、欲しかったよい。…マルコは、お前を愛してやれって言ってたけどな。」


――もう、泣かせたくねえんだよい。



そう言って、クロが舌先を私のソレと合わせる。熱が籠もる吐息は、泣き出しそうなクロの気持ちを乗せて、私の中に入る。
抱き合って、息をあげて、ただひたすらに私とクロは互いを求める。



本当に良かったのかどうかは解らない。
けれど、例え間違いだといわれても、
止まる事は出来ないんだと思う。



「辛かったら、言えよい。」



そう言って、クロの唇が、
私の首筋を這った。





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